アカデミー時代から緑のDNAを刻み込んできた生え抜きのキャプテン。東京ヴェルディ・森田晃樹が考える「ヴェルディのリーダー」像
【特集】チームリーダーの在り方#3
森田晃樹(東京ヴェルディ)
サッカーチームが一つの集団としてまとまるには監督の力はもちろん、選手たちの中にもリーダーが必要だ。カリスマ性、コミュニケーション力、人格、仲間からの信頼、経験や実績……チームリーダーには様々なものが求められ、様々なタイプがいる。Jクラブのキャプテンたちの実情を探ることで、複雑性の高いサッカーというスポーツのリーダーシップの在り方について考えてみたい。
第3回は、16年ぶりのJ1で旋風を巻き起こしている東京ヴェルディのキャプテンを務める森田晃樹。アカデミーで育ったクラブ生え抜きの23歳が考える、『ヴェルディのリーダー』の在り方とは?
2023年シーズン。指揮官は森田をキャプテンに指名した。
リーダーにはさまざまなタイプがある。
たとえ自分がミスをしようとも、常に声でチームを鼓舞し、時には厳しいこともはっきりと提言するタイプ。ロッカールームや円陣で熱いことを語り、士気を上げるタイプ。ピッチ外で仲間を集め、決起集会などを開いて一体感を高めることに尽力するタイプ。多くは語らずも、背中やプレーで引っ張るタイプ……(もちろん、そのすべてを兼ね備えている場合も往々にしてあるが)
どのようなタイプの選手をキャプテンに選ぶのか。そこには指揮官のチーム作りのヴィジョンが見えて非常に興味深いところだ。
2022シーズン途中から東京ヴェルディの監督に就任した城福浩監督は、始動からチームを率いた2023年、当時22歳だった森田晃樹をキャプテンに指名した。彼を抜擢した理由には、城福監督の、“ヴェルディ”という日本サッカー界の歴史を作ってきた伝統あるクラブへのリスペクトと、そのクラブチームで指揮を執り、未来へのバトンをつなぐ役割を担った使命感に溢れていた。
「いま、ヴェルディにいるベテランの選手は、キャプテンマークがなくてもリーダーシップが取れる選手ばかりなので、僕みたいな若くて、しかもアカデミー出身選手がそういう責任のある役職、立場になることが、よりクラブにとっても大きな意義があるし、個人としても大きな成長になるんじゃないかと、城福さんに言っていただいて、引き受けさせていただくことにしました」
就任時、森田はそう受諾の事由を述べていた。
「J1に上げた男になりたいと思います」と言い切ったキャプテン就任の決意
決して、即答ではなかったという。
「まず『困ったな』が率直な気持ちでした。高校3年の時にユースでキャプテンをやらせていただいていましたが、その時とは違って、今のチームでは僕が一番年上なわけではないですし、もっといえば、どちらかといったら年齢が低い方なので、そのあたりの難しさも考えました。イベントや要所でも、キャプテンは人前でチームを代表して喋らなければいけないですが、僕はそれが本当に苦手で。さらにキャプテンはスタッフと選手、選手と会社(クラブ)をつなぐという大きな仕事もあると思うので、それを考えたら、『果たして僕にできるのかな?』と少し悩みました」
約5分間、熟考した。その間、「城福監督は目の前で笑いながら待っていてくれました」。そして、「いろんなことがプレッシャーに感じることもあると思うし、悩むこともあると思うけど、結局、そういう経験って、サッカー選手をやっていく上ではもちろん、その後、現役サッカー選手のキャリアを終わった後の自分のためにもなると思いましたし、今、その経験をしておくことで、のちの自分が成長できるんじゃないかなと思って、『やらせてください』と自ら言いました」。
もう一つ、森田の心を動かしたのが、J1昇格への強い想いだった。2009年にクラブ史上2度目となるJ2降格を経験してしてから、2022年シーズンまでの14年間、チームを牽引するのに相応しい何人もの選手がキャプテンマークを背負い、J1昇格を目指してきた。だが、いずれも果たすことができていない。その無念さを自分が受け継ぎ、今度こそ悲願を達成したいとの気持ちこそが、何よりも上回ったのである。「J1に上げた男になりたいと思います」。メディアの前で、珍しく熱い言葉でキャプテン就任への決意を表現した。
「僕と(谷口)栄斗という、アカデミー出身の選手がキャプテン、副キャプテンとしてトップチームを引っ張って戦い、ヴェルディをJ1に上げることができれば、このクラブの育成組織が素晴らしいということの何よりの証明になると思う。その意味でも、僕がキャプテンをやることでクラブにとっても大きな意味を持たせることができるんじゃないかと思います」
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Profile
上岡 真里江
大阪生まれ。東京育ち。大東文化大学卒業。スポーツ紙データ収集、雑誌編集アシスタント経験後、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の公式ライターを経て、2007年より東京ヴェルディに密着。2011年からはプロ野球・西武ライオンズでも取材。『東京ヴェルディオフィシャルマッチデイプログラム』、『Lions magazine』(球団公式雑誌)、『週刊ベースボール』(ベースボール・マガジン社)などで執筆・連載中。