「Show the flag」を軸に据えて戦い抜いたJ3での1年間。大宮アルディージャ・石川俊輝のリーダーシップがチームに与えた変化
【特集】チームリーダーの在り方#5
石川俊輝(大宮アルディージャ)
サッカーチームが一つの集団としてまとまるには監督の力はもちろん、選手たちの中にもリーダーが必要だ。カリスマ性、コミュニケーション力、人格、仲間からの信頼、経験や実績……チームリーダーには様々なものが求められ、様々なタイプがいる。Jクラブのキャプテンたちの実情を探ることで、複雑性の高いサッカーというスポーツのリーダーシップの在り方について考えてみたい。
第5回は、至上命題だった1年でのJ2復帰を成し遂げた大宮アルディージャのキャプテンを任されている石川俊輝。人生初のキャプテンに指名された今シーズンを戦う中で、石川が少しずつ発揮していったリーダーシップと、その影響を受けたチームに起こった変化とは?
新シーズン始動日に発した中心選手としての決意
優勝セレモニーの壇上、その中央で高々とシャーレを掲げたその笑顔は、頂点を極めた喜びと、そして必達目標をしっかりと達成することができた安堵に満ちていた。大宮アルディージャキャプテン、石川俊輝の無上の瞬間だった。
屈辱のJ3降格からわずか2か月で迎えた1月9日の新シーズン始動日。クラブにとってJ2復帰は至上命題であり、それはもちろん全員が胸に刻んでいた。
石川は、開口一番にこう言った。
「J3優勝するために、この時期からしっかり準備することが大切。まだ初日ですけど、どんどんコンディションを上げていきたいと思います」
新シーズンへの契約更新リリース一番手でもあった石川は、東洋大学から湘南ベルマーレを経てはいるものの、ジュニアユースから大宮で育った。湘南では2014年、2017年とJ2優勝を果たし、2022年にはヴァンフォーレ甲府で天皇杯も獲った。2015年のJ2優勝を知る選手がほとんどいなくなった今、大宮というクラブを知り、そして勝利のメンタリティを知る数少ない選手である。
「J3優勝するために僕自身がこれまで経験したことを伝えていきたいし、伝えていかなければいけない年齢だと思っています」
「若くていい選手がいっぱいいる。そういった選手の成長も見てもらいたい。僕はそういう選手を引っ張るというか、一緒に成長していきたい」
まだキャプテン就任前であったが、まさに中心選手としての言葉そのものである。
背中で語るキャプテンを先頭に、2024アルディージャはスタートした
もちろん、そうした姿勢を指揮官も見ていたのだろう。長澤徹監督は約1か月間のプレシーズンで見極め、石川をキャプテンに指名した。
「本人にも言ったが、旗を持って戦ってくれればいい。ごたごたはこっちで全部マネジメントするから、言いたいことがあったらキャプテンとして言ってこい、と。みんなをまとめなきゃとか、そういう形では渡してない。ピッチでShow the flagして戦える人間だと思ったので、託しました」(長澤監督)
Show the flag――旗を持って戦う。辞書によれば“主張を明確にする”“力を誇示する”といった意味があるが、紐解けば“俺たちはこう戦う、みんなついてこい”といったところだろうか。それは石川も自覚していた。……
Profile
土地 将靖
1967年埼玉県生まれ。1993年のJリーグ開幕と同時に試合速報サービスのレポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーに転身し大宮アルディージャに密着、各種媒体への寄稿を細々と続けている。2005年より続いていた大宮全公式戦の現地直接取材はコロナ禍で途絶えたが、近年は下部組織の取材にも注力し、精力的に活動している。