満了からの再契約で異例のキャプテン指名。長崎の秋野央樹が体現する「潤滑油型」のリーダーシップ
【特集】チームリーダーの在り方#1
秋野央樹(V・ファーレン長崎)
サッカーチームが一つの集団としてまとまるには監督の力はもちろん、選手たちの中にもリーダーが必要だ。カリスマ性、コミュニケーション力、人格、仲間からの信頼、経験や実績……チームリーダーには様々なものが求められ、様々なタイプがいる。Jクラブのキャプテンたちの実情を探ることで、複雑性の高いサッカーというスポーツのリーダーシップの在り方について考えてみたい。
第1回は、契約満了からの再契約でキャプテンに指名されたV・ファーレン長崎の秋野央樹。ケガのブランクを乗り越え、不動のボランチとしてチームを引っ張った30歳が示すリーダー像とは?
柏アカデミーから始まった「流転」のキャリア
秋野央樹のキャリアは実に極端である。成功と苦難。上昇と停滞。不運と幸運。失意と復活。明暗が交差するそのキャリアは、まさに「流転」と形容していい。
9歳から所属した柏アカデミーでは幾多の実績を積み上げて12歳で日の丸を背負い、柏ユースの黄金期を支えた。トップ昇格してからも精度の高い左足キックとゲームの流れを読むセンスを武器に着実に出場機会を増やし、2016年のリオデジャネイロ五輪を目指すチームには、立ち上げ当初からメンバー入りしキャプテンも務めた。
だが、本大会4カ月前に五輪代表への招集は途絶え、リオの舞台に立つことは叶わず、2016年終了後に、レギュラーに定着していた柏からJ2へ降格した湘南へ期限付き移籍を選択する。リオ五輪落選の痛手の中で、自信の将来のことを考えて「プレーの幅を広げたい」という一心だったという。
そのチャレンジは、主力としての成長と湘南のJ1昇格という結果に結びついた。だが、完全移籍を果たし飛躍を誓ったはずの秋野は、2019年に心身のコンディションを崩してしまう。そんな苦しい状況の中、リオ五輪代表チームの指揮官で当時は長崎を率いていた手倉森誠監督から途中移籍のオファーを受けた秋野は心機一転を期し、「今回の移籍はチャンスというより挑戦」と期限付き移籍を決断。加入後は主力として活躍し、チームの強い求めに応じてシーズン終了後には完全移籍することを決めた。
こうして完全復活を果たしたかに思えた秋野だったが、キャプテンとして挑んだ2020シーズンは、あと一歩でJ1昇格までチームを引き上げながらシーズンを3位で終了。コロナ禍でJ1昇格プレーオフがないシーズンだったためJ1昇格の望みは絶たれ、手倉森監督の解任が決定する。
ここから、秋野の苦悩は長く続く。手倉森監督の後任となった吉田孝行監督の下で再びJ1を目指すもチームは苦戦。吉田監督は5月で解任となり、相次ぐ監督交代の中で再び心身を摩耗させてしまった秋野は故障と長期離脱を繰り返す負のスパイラルへと陥った。
満了後の再契約。異例のキャプテン指名の背景
そして、2023年11月。V・ファーレン長崎から秋野央樹の契約満了が発表された。約2年の間ほとんどプレーできていない以上、やむを得ない話である。だが、新チームを求めてトライアウトに進退をかける身となった秋野に転機が訪れる。
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Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。