8年間出場ゼロの裏で…戦友退団&ACL登録外も乗り越えた川崎F16年目、安藤駿介の知られざる成長と貢献
【特集】チームを陰から支えるベテランGKの矜持#7
安藤駿介(川崎フロンターレ)
GKは1人しかピッチに立つことができない特殊なポジションだ。注目されるのは、ピッチ上で輝く正守護神。それ以外のGKたちにスポットライトが当たることは少ない。1つのクラブにすべてを捧げ続けてきた者、数多くのクラブを渡り歩いた経験を持つ者、常に上を目指し続ける向上心を忘れない者……チームを陰から支えるベテランGKの矜持をぜひ知ってほしい。
第7回で取り上げるのは、川崎フロンターレの安藤駿介。公式戦では8年間、リーグ戦では10年間出場がない中で心技体を磨き続ける34歳の知られざる成長と貢献に、本人に直撃した番記者のいしかわごうが迫る。
「自分がセーブしなくても…」見出した新たなGKの醍醐味
安藤駿介のプロキャリアは16年が過ぎようとしている。
現在34歳。トップチームにはU-18(ユース)から昇格した2009年から所属しており、川崎フロンターレの在籍選手としては最古参だ。1シーズンだけ湘南ベルマーレに期限付き移籍していたものの、U-15(ジュニアユース)から過ごした下部組織時代も含めると、人生における大半をこのクラブで過ごしてきたといっても過言ではない。
プロ3年目の2011年にJ1初出場を果たし、カップ戦も含め公式戦5試合に出場した。翌12年にはU-23日本代表としてロンドン五輪本大会メンバーに選出されている。権田修一の壁は越えられず出場機会は得られなかったが、翌年は湘南で公式戦15試合に出場。この世代を代表するGKとして、貪欲に成長を続けていた。
ただ14年に川崎フロンターレに復帰して以降、リーグ戦の出場記録は止まっている。チームのGKは4人体制で、ピッチに立てるのは1人だけ。3人は控えに回ることになる。16年には韓国代表のチョン・ソンリョンが加入し、不動の守護神として君臨した。安藤が公式戦のピッチに立ったのは、この年のナビスコカップ(現ルヴァンカップ)のベガルタ仙台戦が最後となっている。
それでも、出場数や出場時間といった数字には表れないものを積み重ねてきた自負がある。フィールドプレーヤーであれば、年齢とともに出場機会が減ると「衰えた」と烙印を簡単に押されてしまうかもしれないが、経験値が武器となるGKはその限りではない。その一つは自身のプレースタイルの変化だ。
安藤も20代の頃は「自分が全部止めてやる」と意気込んでいた。もちろん、そうした気概は変わらずに持ち続けているが、だからと言って無理な背伸びをすることはなくなった。年齢を重ねるにつれて、力まず、自然体でゴールマウスに立てるようになったからだ。
「やれることをしっかり整理して確実にプレーする。自分のやれることを増やしていくスタンスでやっていますね。結果が出ていないのであまり大きなことは言えないですが、自分の中では成長していると思います」
俊敏なシュートストップでゴールを守るのではなく、コーチングで味方を動かしながら、読みに頭を働かせてピンチを未然に防ぐ。チームでゴールを守るプロセスにも醍醐味を見出すようにもなり、そのことを語る表情も充実している。
「自分がセーブしなくても、味方に少し早めに指示を出して守る。その選手が防いだファインプレーでも、そこに自分が少し関われていると思える瞬間がいいなという感覚で今はやっていますね。ここ数年ですが、そういうふうに思えるようになってきています」
盟友ノボリとの別れから始まった激動の2024シーズン
そんな安藤にとっても、この2024年は激動のシーズンとなっている。
まず登里享平のセレッソ大阪移籍があった。2009年の入団同期であり、日頃の付き合いは15年にもなる。無冠だった時代も含め、あまりに多くの苦楽をともにしてきた戦友とも言える存在である。
例えば、中村憲剛が現役引退する2020年のこと。
新たにチームの最古参となる安藤と登里の2人は、「お前がいるから、俺は何も心配していないよ」と個別に呼ばれて事前に引退を告げられていた。バンディエラが信頼を寄せ、クラブの未来を託したほど、川崎フロンターレにおける2人の役割は大きかったのだ。
その登里が今オフに川崎フロンターレを離れる決断を下した。移籍前に安藤は相談も受けている。「年末でしたね。何かなと思って電話に出たら、『オファーが来ていてすごく迷ってる』とのことでした」と、3日連続で気持ちが揺れ動く盟友と電話で話し合った。……
Profile
いしかわごう
北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago