なぜJクラブの戦術サイクルは続かない?G大阪が「普遍性」と「目的意識」の両輪で進む流行の先
【特集】欧州&Jリーグの
複雑化する最新ビルドアップ解析#5
ガンバ大阪
「ハイプレスvsビルドアップの攻防」は現代サッカーの基本としてすっかり定着し、日進月歩でブラッシュアップが繰り返されている。近年はロベルト・デ・ゼルビが率いたブライトンが見せた敵のハイプレスを誘引してその裏を取る「疑似カウンター」が注目されたが、多くの監督たちは知恵を絞って新しいアイディアの開発を進めている。今特集では、24-25シーズンの欧州サッカー、2024シーズンのJリーグの注目クラブを対象に、ビルドアップ戦術にフォーカスして分析してみたい。
第5回は、ポヤトス体制2年目を迎えているガンバ大阪。「戦略」としてのポジショナルプレーを浸透させながら天皇杯決勝へとたどり着いた両輪、「普遍性」と「目的意識」とは?
安定性・持続性に欠けるJクラブの戦術サイクル
数シーズン続いた低空飛行を抜け出しJ1で4位、天皇杯では決勝へ進出するなど復活の予感を漂わせているガンバ大阪。そのガンバについてビルドアップの側面から分析を行っていく。
最初にその位置づけを探るべく、昨今のJリーグでボール保持戦術において大きな影響を及ぼした事例をいくつか挙げてみよう。まずは言わずと知れた“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督が発明した「ミシャ式」。[3-4-2-1]から[4-1-5]への可変が可能にする攻撃的な姿勢にはフォロワーも多い。そしてミシャ式からも影響を受けているであろう「擬似カウンター」。欧州ではロベルト・デ・ゼルビ監督が率いたブライトンで一躍有名になったこの戦術だが、先取りしていた片野坂知宏監督の大分トリニータがJリーグで躍進を果たしていた。
一方で、川崎フロンターレや横浜F・マリノスによるポゼッションサッカーも一時代を築いた。前者は風間八宏監督の「止める・蹴る」で技術的な素地が作られ、鬼木達監督の下で偽SBなど欧州の戦術も取り入れられていく。その川崎と覇権を争った横浜FMもまた、シティ・フットボール・グループの影響で欧州の知見も持ち込みつつ、アンジェ・ポステコグルー流派を招いて常に主導権を握るアタッキングフットボールを展開してきた。
そしてもう1つの流れをなすのが、主にスペイン人監督による「ポジショナルプレー」だ。これもまた欧州の流行として輸入され、小さくない影響を与えた。現在、Jリーグで指揮を執るスペイン人はダニエル・ポヤトス監督ただ1人だが、松橋力蔵監督のアルビレックス新潟や小菊昭雄監督のセレッソ大阪、川井健太前監督のサガン鳥栖などはこのポジショナルプレーのエッセンスを取り入れつつ、ミシャ式や擬似カウンターなど従来のJリーグのサッカーと昇華させていった事例とも表現できるだろう。
しかし、これらJリーグのボール保持戦術には大きな欠点も存在する。それは安定性・持続性の欠如だ。ミシャや風間監督は「優勝できないチーム」の代名詞とされ、擬似カウンターやポゼッションを標榜する監督も「戦力の割には良いサッカーする」の域を脱することができなかった。また隆盛を誇った川崎や横浜FMだが、主力の流出により戦術的な質が下がってしまい、今季は非常に苦しんでいる。つまり、数試合単位で、あるいは数シーズン単位で、戦術的なサイクルが終わってしまうのだ。
「不変の方法に拘泥しない」ガンバのフヘン性
その原因を解決する可能性を秘めているのが、ポヤトス体制2年目のガンバである。
テーマはあくまでビルドアップだが、「今年のガンバの好調はビルドアップの向上により攻撃力が上がったからである」と表現するのは正しくないだろう。事実、今季の1試合平均得点数はリーグワースト4位タイで、ゴール期待値を見ても上から10番目。近年の水準に比べればマシな部類だが、断じて高い部類ではない。
今季の上位進出、その背景にあるのは間違いなく失点の少なさである。数字を見れば町田ゼルビアと並んでリーグ1位。新加入の中谷進之介や一森純らの奮闘もあり、「堅守」のチームとしてその地位を築きつつある。
とはいえ、一般的に「堅守」とされるようなチームの姿と、今年のガンバの戦い方では異なる印象を持つのではないだろうか。ボール保持率と攻撃力の相関はさておき、保持率が50%を超えリーグ7番目の数字であることからも、少なくとも非保持に割り切ったチームでないことは明らかだろう(ちなみに同じく最少失点の町田は保持率が下から3番目である)。このようなスタッツ上の特徴を示すチームは過去にも存在した。それが先述の川崎や横浜FMだ。敵陣でのボール保持+ハイラインでのプレッシングは「ずっと自分たちのターン」を可能にする。結果として、得点は多く失点は少ない、ゆえに強いというロジックが成り立っていた。
今年のガンバも目指すところは同じだろうが、完成度としては遠く及んでいない。まず単純に、スカッドとしての最大値はあの頃の川崎や横浜FMには及ばないし、連携の面でもまだ足りていない部分があるだろう。しかしおそらく、それで良いのだ。どういった条件であっても、一定のコンセプトの下、根底に1本の筋が通ったフットボールを行うこと。それこそがポヤトス監督、さらに言えばクラブの目指すところであり、その1つの手段としてのビルドアップという考えが浮かび上がってくる。
そんなガンバのビルドアップにはキーワードが2つある。「フヘン性」と「目的意識」だ。
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Profile
高橋 俊哉
1999年生まれ。武蔵高校から東京大学に入学し、文学部社会学専修を経て工学系研究科都市工学専攻に進学。研究内容はスポーツクラブとまちづくりについて。またア式蹴球部ではテクニカルや強化、コーチとして活動。好きなチームはガンバ大阪で、好きな選手はオジェソクと岩下敬輔。高校時代は気持ちで闘うタイプの選手でした。note: https://note.com/techtaka X: @techtaka