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鍵はユニークな3つの原則。インテルが提示するビルドアップの新たな可能性

2024.11.14

【特集】欧州&Jリーグの
複雑化する最新ビルドアップ解析
#3

インテル

「ハイプレスvsビルドアップの攻防」は現代サッカーの基本としてすっかり定着し、日進月歩でブラッシュアップが繰り返されている。近年はロベルト・デ・ゼルビが率いたブライトンが見せた敵のハイプレスを誘引してその裏を取る「疑似カウンター」が注目されたが、多くの監督たちは知恵を絞って新しいアイディアの開発を進めている。今特集では、24-25シーズンの欧州サッカー、2024シーズンのJリーグの注目クラブを対象に、ビルドアップ戦術にフォーカスして分析してみたい。

第3回は、「いくつかの原則において、モダンサッカーのスタンダードとは明らかに異なっている」というインテルのビルドアップについて研究してみたい。シモーネ・インザーギ就任4年目のイタリア王者が確立させた流動的なスタイルは、今後の1つの方向性になるはずだ。

 圧倒的な強さで昨シーズンのセリエAを制し、今シーズンも優勝候補の筆頭に挙げられているインテル。就任4年目を迎えたシモーネ・インザーギ監督の下で、モダンサッカーのスタンダードとは一線を画した独自の[3-5-2]システムを確立し、シーズンを重ねるごとに発展と熟成を進めてきた。

 ここで言う「モダンサッカーのスタンダード」とは、4バックの[4-4-2/4-2-3-1]か[4-3-3/4-1-4-1]を基本システムとし、ビルドアップ時には[3-2-5]や[2-3-5]のポジショナルな配置を取って、ショートパスをつなぎながら主に中央ルートで前進し、敵2ライン間の5レーンを埋めたアタッカーのいずれかにクリーンなボールを届けることを目的とするスタイルを指す。そうして一旦敵2ライン間(地域的にはミドルサードの敵陣側)までボールを運んだ後は、そこでポゼッションを確立するなり、一気にフィニッシュを狙うなりで、敵最終ライン(地域的にはファイナルサード)の攻略にかかるという寸法だ。

 マンチェスター・シティ、アーセナル、リバプール、チェルシーからバイエルン、バルセロナ、パリSGまで、5大リーグのトップクラブはほとんどがこうした「ポジショナルなビルドアップ」を基本に据えている。そこに選手間のポジションチェンジやローテーションによる流動性をどれだけ加えるかは、監督の考え方によって異なってくる部分だが、いずれにしても基本となる原則は、あらかじめ決められたポジショナルな配置([3-2-5]や[2-3-5])に基づく全体構造を維持し、数的/位置的/質的優位を作り出して前進するというものだ。

第1の原則は「相手を引き出す」

 インテルのビルドアップは、いくつかの原則において、この「モダンサッカーのスタンダード」とは明らかに異なっている。ビルドアップ時の基本配置は基本システムと同じ[3-5-2]だが、これはあくまでスタートポジションに過ぎない。ここからボールを動かして前進して行く中で、人は流動的に入れ替わり配置も柔軟に変化していくからだ。その過程で、ポジショナルな全体構造を維持することにはあまり注意が払われない点も大きな特徴である。

 第一の原則は、相手を「押し込む」のではなく「引き出す」ことを目的とするというもの。インテルは「ボールと地域を支配して主導権を握る」ことにはあまり興味を持っていない。それゆえ、ポジショナルなポゼッションサッカーを志向するチームに共通する「コンパクトな陣形を保って前進し、敵陣ミドルサードでポゼッションを確立して相手をゴール前に押し込める」というコンセプトも重視されていない。

 ビルドアップの狙いはむしろ「自陣でボールを動かすことによってプレスを誘引し、その結果として生まれる敵最終ライン背後のスペースを攻略する状況を作り出す」ところにある。その第一段階となるのは、自陣ファーストサードでのパス回し。その際の配置は、相手のプレスの出方によって柔軟に変化する。

 3バックがマンツーマンでプレスを受けた場合には、左ウイングバック(WB)のディマルコが最終ラインに加わり、さらに中盤もアンカーのチャルハノールの脇にインサイドハーフの一方(主にバレッラ)が落ちてくることで4+2の配置を取ることが多い。これは、1人でも多くのマーカーを低い位置まで引き出すことで相手の2ライン間を広げ、前線に生まれる4対4の数的均衡を広いスペースで活かすのが狙い。

 この場合は、第1列にGKも組み込むことで「プラス1」の数的優位を確保し、7対6のパス回しの中で誰かがフリーで前を向く状況を作り、そこから前線に縦パスを送り込むという流れになる。主な選択肢は、広がった2ライン間のスペースに下がってきた2トップの一方(あるいはインサイドハーフ)に低く速いパスを通す、裏のスペース(とりわけ右サイド)に飛び出したテュラムやドゥムフリースに対角線のロングパスを送り込むという2つ。前者はGKゾマー、後者はバストーニやアチェルビが出し手となることが多い。

第2の原則は「空いたスペースに動く」

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。