新潟のビルドアップに見る、「場所」と「時間」の攻防におけるAI型ボランチの優位性
【特集】欧州&Jリーグの
複雑化する最新ビルドアップ解析#4
アルビレックス新潟
「ハイプレスvsビルドアップの攻防」は現代サッカーの基本としてすっかり定着し、日進月歩でブラッシュアップが繰り返されている。近年はロベルト・デ・ゼルビが率いたブライトンが見せた敵のハイプレスを誘引してその裏を取る「疑似カウンター」が注目されたが、多くの監督たちは知恵を絞って新しいアイディアの開発を進めている。今特集では、24-25シーズンの欧州サッカー、2024シーズンのJリーグの注目クラブを対象に、ビルドアップ戦術にフォーカスして分析してみたい。
第4回は、J1でも屈指のボール保持率を誇るアルビレックス新潟。ハイプレスvsビルドアップは「場所」と「時間」をめぐる攻防で、新潟は情報処理能力の高いボランチ2人でその2つの優位性を確保している。
アルビレックス新潟の基本フォーメーションは[4-2-3-1]。ビルドアップは4バック+2ボランチの6人を中心に行う。
4バックの距離感は長め。欧州ではシャビ・アロンソ監督下のレバークーゼン、デ・ゼルビ監督のマルセイユなど、ビルドアップ隊の距離を縮めるケースがあるが、J1でそれをやっているチームは今のところ見当たらない。J2で群馬が大槻監督の時にレバークーゼン型の短い距離感のビルドアップをやっていたくらいだろうか。
J1のビルドアップはその点ではオーソドックスで新潟も例外ではない。J1に昇格した昨年と今年でボール保持率の最も高いチームだが、特に変わったところは見当たらない。
あえて特徴を探すなら、「ボランチのサッカー」ということになるだろうか。
ボランチの能力を前提としたビルドアップ
CIES Football Observatoryというスイスの分析グループの集計によると、秋山裕紀は2023年のベストパサー部門で世界53位だったそうだ。どう評価していいかわかりにくい順位だが、日本人選手の中では最高位。パス本数、成功率ともにJ1で常にトップクラスであるのは間違いなく、Jリーグのトニ・クロースといった趣の選手である。
この秋山とボランチを組むのは宮本英治。プレースタイルは秋山とほぼ同じ。パサーを2人並べるのは、かつて川崎で中村憲剛、大島僚太の例はあったが、そんなに多くはない。1人が攻撃型ならもう1人は守備型でバランスを取る方が一般的だろう。技巧的なMFを中央に2人というところは新潟らしさだ。
SBがタッチラインいっぱいに広がる4バックの距離感は長い一方で、ボランチは4バックに近い位置を取る。J1屈指のボランチ2人はDFからのパスを受けるために近づいていく。対戦相手は新潟がボールを保持するチームで、ボランチがその心臓なのは承知しているので、秋山と宮本に対して距離を詰めて奪いに行くわけだが、この2人が簡単にボールを失うことはない。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。