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「動く」と「動かない」の組み合わせ。V字回復した山形のビルドアップ構造を読む

2024.11.12

【特集】欧州&Jリーグの
複雑化する最新ビルドアップ解析#2

モンテディオ山形

「ハイプレスvsビルドアップの攻防」は現代サッカーの基本としてすっかり定着し、日進月歩でブラッシュアップが繰り返されている。近年はロベルト・デ・ゼルビが率いたブライトンが見せた敵のハイプレスを誘引してその裏を取る「疑似カウンター」が注目されたが、多くの監督たちは知恵を絞って新しいアイディアの開発を進めている。今特集では、24-25シーズンの欧州サッカー、2024シーズンのJリーグの注目クラブを対象に、ビルドアップ戦術にフォーカスして分析してみたい。

第2回は、シーズン前半戦は苦戦したものの終盤戦に怒涛の9連勝で昇格プレーオフ圏内に入ってきたモンテディオ山形。。ピーター・クラモフスキー、渡邉晋と長年J2でポジショナルプレーを追求してきたチームのビルドアップ構造に迫る。

「日本らしいビルドアップ」とは何か?

 モンテディオ山形のビルドアップについて語る前に、前提としてJリーグらしいビルドアップについて考えていきたい。

 今シーズンはJ1を中心に多くのクラブの試合を観察する機会が多かった。その中で、ある共通点があることに気がついた。根っこの思想は異なるかもしれないが、同じような現象が異なる試合で何度も再現され、次第に「Jリーグらしさ」が見えてくるようになったのだ。

 「Jリーグらしい」ビルドアップとは、後方の数的優位を前提としている。

 相手GKがCFのマークにつく時代がちっとも訪れないように、自陣からボールをつないでいくチームにとって、相手陣地に入るまでは(相手GKを除いた)「11対10」の世界でプレーしていることは今も変わらない。この角度から見れば、ビルドアップが数的優位で行われることはサッカーの原則と言うことができるかもしれない。

 一方で相手GKがCFのマークができないように、味方のGKもドリブルでボールを運んだり、ゴールから離れてCBのように振る舞ったりする時代が訪れる気配もあまりない。よって「11対10」ではなく、味方GKを0.5人分に換算した「10.5対10」くらいの表現の方が現実に即していると言えるかもしれない。

 優位性――つまり、自陣で得られる時間とスペースを相手陣地に味方と共有しながら前進していくことをビルドアップとすると、Jリーグは自陣での優位性の活かし方に共通点がある。

 欧州サッカーでよく見かけるビルドアップは、オープンな状態のCBが自分ではなく他の味方をマークする相手選手をその場に固定する、もしくは誘き出すためのプレーをすることが多い。フリーのCBを起点にして時間とスペースを作るための状況を作ることを1つのゴールとしているからだろう。

 一方、日本で見かけるビルドアップは、ボール保持を安定させるために自陣での優位性を利用することが多い。例えば、CBとGKを使って延々とボールを動かして、相手のプレッシングを牽制することは、日本でよく見られる現象だ。相手のファーストラインを越えることを目的にボールを動かすのではなく、相手にプレッシングを諦めさせることを目標としている。もしも、相手が枚数かけてプレッシングを仕掛けてくる時は精度の高いロングボールを蹴ることで、相手にプレッシングを続けるべきかどうかを考えさせる狙いがある。

 日本らしいビルドアップの構造的な特徴は、「相手のプレッシングを牽制するための可変」と「ビルドアップの出口を作るための移動」が組み合わされているところだろう。このビルドアップを採用するチームのCBはボールを運んで味方を解放することを得意とはしていないが、フリーの味方を見つけ、狭いパスラインを通すことができる傾向がある。時間とスペースを作る/与えるというよりも、時間とスペースを持っている立ち位置の選手を見逃さずパスを通せる能力を持つCBがJリーグには多い。つまり、ビルドアップの出口を作るための柔軟な移動と組み合わせることで、ビルドアップが成立する仕組みになっている。

「11対10」を作った上で「待てる」

 モンテディオ山形のビルドアップは、Jリーグらしい構造を持っている。……

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。