「やっぱり岡山で昇格したい」36歳の強い信念。ファジアーノ岡山・金山隼樹がピッチから遠ざかってもチームファーストを貫く理由
【特集】チームを陰から支えるベテランGKの矜持#3
金山隼樹(ファジアーノ岡山)
GKは1人しかピッチに立つことができない特殊なポジションだ。注目されるのは、ピッチ上で輝く正守護神。それ以外のGKたちにスポットライトが当たることは少ない。1つのクラブにすべてを捧げ続けてきた者、数多くのクラブを渡り歩いた経験を持つ者、常に上を目指し続ける向上心を忘れない者……チームを陰から支えるベテランGKの矜持をぜひ知ってほしい。
第3回は、ファジアーノ岡山のGK陣を明るく束ねる金山隼樹。なかなかゲームには絡めない時間を長く強いられてきた中で、この36歳が常にチームファーストを貫く理由を気鋭の若手ライター、難波拓未に教えてもらおう。
控えGKの川上康平はその時、ピッチに拍手を送っていた!
2024シーズンのファジアーノ岡山は、J2屈指の堅守を誇っている。引いて守るチームではないにもかかわらず、だ。志向するのは、「アクティブで、アグレッシブなサッカー」。コンパクトな[3-4-3]の陣形から相手に襲いかかるようなプレスを繰り出し、相手コートで攻守を展開することを目指す。矢印を前に向けてプレー選択を行うという攻撃的なマインドを備える中、第35節終了時点での失点数「27」は、首位の横浜FCに次いで2番目に少ない数字であり、無失点試合数「18」はリーグ最多記録だ。
堅牢な守備の構築に、GKスベンド・ブローダーセンが大きく貢献していることは間違いない。今シーズンに横浜FCから加入したドイツ籍GKは、常人離れした長い手足と鋭い反射神経を生かし、驚異的なスーパーセーブでゴールマウスに鍵をかけてきた。さらに田上大地、阿部海大、鈴木喜丈の3バックもゴール前で高い集中力を発揮している。
しかし、守備組織の成熟はピッチに立つ選手だけでは行えない。日々の練習から培っていくものである。第34節・ヴァンフォーレ甲府戦は惜しくも敗れたが、序列や立場に関係ない結束力を感じる場面があった。
相手の波状攻撃を受ける中でブローダーセンがクロスを直接キャッチすると、ウォーミングアップエリアで黙々と体を動かしていた大卒ルーキーのGK川上康平が立ち止まってピッチに拍手を送ったのだ。いつ訪れるかわからない試合出場への入念な準備だけではなく、自分の代わりにプレーしている選手を称賛する。フォア・ザ・チームの精神を強く感じた行動について、試合後、本人に尋ねた。
切磋琢磨する4人の“仲間”が一体となってゴールを守っている
「今まで同じポジションの選手を応援することができなかったんです。自分が試合に出られないことが悔し過ぎて。でも、今は心の底から応援することができています。だからこそ自然に出た行動だったと思います」
もちろん試合に出ることをあきらめているわけではないし、現状の立場を受け入れるつもりはない。
では、なぜプロ1年目のGKが約半年でマインドを変えることができたのか。そこにはチームの屋台骨を支える最年長GK金山隼樹の姿があった。
「隼樹さんはすごく頼りになる存在です。チームに難しいことがあった時、真っ先に声をかける姿を見てきました。チームが試合に向かう時、ベンチに入れなくても何一つ嫌な顔をせず送り出してくれますし、そういう立ち振る舞いがノビノビとプレーできる要因になっていると思います。自分もこういうふうにならなきゃいけない。目標にしたい選手像が目の前にあります」
ゴールマウスを任されているブローダーセンも、チーム最古参GKの姿勢に敬意を示す。……
Profile
難波 拓未
2000年4月14日生まれ。岡山県岡山市出身。8歳の時に当時JFLのファジアーノ岡山に憧れて応援するようになり、高校3年生からサッカーメディアの仕事を志すなか、大学在学中の2022年にファジアーノ岡山の取材と撮影を開始。2024年からは同クラブのマッチデープログラムを担当し、サッカーのこだわりを1mm単位で掘り下げるメディア「イチミリ」の運営と編集を務める。(株)ウニベルサーレ所属。