FEATURE

イニエスタとシャビを彷彿とさせる新時代のプレーメイカー、ビティーニャの凄みを言語化する

2024.09.26

プレーメイカーは絶滅するのか?#3

インテンシティの重視、ビルドアップの機能分散が加速する現代サッカーに、果たしてプレーメイカーの居場所は存在し続けるのか?トニ・クロース、チアゴ・アルカンタラという時代を彩った名手が相次いで現役を引退した今、考える司令塔たちの未来。

第3回では、パリ・サンジェルマンの司令塔であるビティーニャを分析。アンドレス・イニエスタとシャビ・エルナンデスを彷彿とさせる新時代のプレーメイカーの凄みとは?

 偽サイドバックも浸透する中で、プレーメイカーの役割の一端を中盤以外の選手も担うのが一般化されている現在だが、守備戦術もみるみると発達してきていることで、ビルドアップ時に求められる個人戦術の水準も上がっている。 ボールを受ける前のポジション取り、ボールを受ける時の身体の向きとコントロールする場所、ボールを受けた後の状況に応じたプレー(パス、ドリブル、 シュート)の選択など、対面の相手や周囲の相手とミクロな駆け引きをしながら、その守備陣形に小さくない影響を与えていくことが必要とされている時代だ。

 丁寧にボールを前進させていってはウイングを軸にゴールを狙い、相手のボール保持局面またはボールロストによるネガティブトランジションで即座にプレッシングからボールを取り上げにいく――いわゆるボール保持型で今季も引き続き戦っているルイス・エンリケ体制2年目のパリSGでは、なおさらそうしたゲームメイクの能力が欠かせない。特にリーグ1で戦力的に抜きん出ている彼らは、その力関係を考慮した対戦相手がミドル/ローブロックを組んで構えてくることも少なくなく、3連覇中の絶対王者が撤退守備を攻略しにいくという試合展開はもはや日常と言える。

リーグ1の優勝トロフィーを中心に、家族と記念撮影するビティーニャ

 そこで昨季は基本システム[4-3-3]から右SBのアシュラフ・ハキミがアンカーやインサイドハーフ、ウイングの位置に移動する[3-2-5]や[3-1-5-1]をベースに、左右にボールを動かして相手を押し込むこと成功していたが、“手前”(相手MFライン前)でボールホルダーになる選手が大きなサイドチェンジでテンポアップを図ったり、ライン間へボールを届けて侵入していったりできず、外回りのボール循環を強いられる試合が多々あった。 このいわゆる「U字のパス回し」が続いてしまうとブロック守備の網目を壊せないまま、外に誘導されてはタッチラインへと圧縮を食らい選択肢を失ってしまう。そうして相手の予測の範疇から抜け出せずに時間経過とともに対応されていく中でも、昨季はエースのキリアン・ムバッペ、ウスマン・デンベレやブラッドレイ・バルコラなど個人で局面を打開できる強烈なアタッカーがいたため、パリSGは彼らの力で試合をものにするケースが多かった。

 しかし既定路線であった今夏のムバッペ退団も見据えてか、その属人性を解消すべく前半戦までインサイドハーフとして主にライン間でボールを受ける役割を担っていたビティーニャが、後半戦からアンカー(ボール保持局面で可変するとダブルボランチの一角)を任され始め、瞬く間にチームの前進や相手のブロック守備攻略の質を上げていくこととなる。

 ちなみにインサイドハーフでもビティーニャは、後方からのボール出しを担うビルドアップ隊に対して、ライン間で胸を合わせながらバックステップやサイドステップで細かくポジションを調整しながら、マーカーから離れてボールを引き出すないしは次のプレーへの移行がスムーズになるような絶妙な体の向きを作る上手さが際立っていた。

 また、左ウイングで起用されていたムバッペと大外レーンとハーフレーンを共有する姿もあり、ハーフスペースからDFライン→大外へのパスラインの間を繋ぐようにサイドに流れる動きで出口となったり、大外でボールを受けては正対で寄せてくる相手SBを固定しながら陣地を進めていく役回りも遂げたりと、試合や場面ごとにプレーエリアが変わっても求められるタスクを難なくこなすIQと技術の高さを発揮していたが、やはりビティーニャが持つ一番の特徴は“手前”へと降りて担う配給役だろう。そのプレーメイカーとしての凄みを本稿では解説していく。

その活躍が認められ、2024年は自身初のバロンドール候補者入りも果たしたビティーニャ

サイドチェンジとライン間侵入で守備陣形を操作

……

Profile

keita

2000年生まれ。宮城県生まれ神奈川県育ち。サッカー指導者とベガルタ仙台サポーターと欧州サッカーウォッチャーの三刀流。グラウンドとSNS上でサッカーについてのインプットとアウトプットを繰り返す日々を送っている。