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「影のプレーメイカー」も発掘可能に!AIと機械学習がサッカーにもたらす新しい評価軸

2024.10.01

【特集】プレーメイカーは絶滅するのか?#5

インテンシティの重視、ビルドアップの機能分散が加速する現代サッカーに、果たしてプレーメイカーの居場所は存在し続けるのか?トニ・クロース、チアゴ・アルカンタラという時代を彩った名手が相次いで現役を引退した今、考える司令塔たちの未来。

第5回では、プレーメイカーの存在価値が問われている今、AIや機械学習によるデータ分析が、従来の統計では捉えきれなかったその真価を浮き彫りにしつつある最新研究を紹介。パスの魔術師たちの「魔法」も科学の目で解き明かされつつある時代の先を、東京大学博士課程で自然言語処理とスポーツにおけるAI活用を研究する染谷大河氏が展望していく。

パス成功率だけでは語れない、プレーメイカーの真価

 2023年9月、レアル・マドリーのトニ・クロースが現役引退を表明した。続いて、リバプールのチアゴ・アルカンタラも引退を決意。ミドルサードまでを舞台に、ファイナルサードへの突破口を開く「プレーメイカー」と呼ばれる選手たちの世代交代が進んでいる。

 現代サッカーでは、インテンシティの重視やビルドアップの機能分散が進んでいる中で、ボールを保持し、チャンスを作り出すプレーメイカーの存在価値があらためて注目されている。しかし、従来の統計指標では、彼らの真価を正確に測ることは難しい。

 これまで、プレーメイカーの評価には主にパス成功率やキーパス数、アシスト数といった指標が用いられてきた[1]。クロースもドイツ代表の一員として臨んだ現役最後の大会、EURO2024のグループステージ開幕節スコットランド戦で、102本中101本のパスを成功させたというスタッツで注目を浴びたのが記憶に新しい。しかし、これらの単純な統計ではプレーメイカーの能力を完全に捉えきれない。例えば、リスクの高いパスを多用する選手は、パス成功率が低くなる傾向がある。また、最後のパス(アシスト)以前の、得点機会を作り出す過程での貢献は見逃されがちだ。

 このジレンマを解決するため、近年、AIや機械学習を駆使した新たな評価手法の開発が進められている。これらの手法は、従来の統計では捉えきれなかったプレーメイカーの能力を数値化し、その真価を浮き彫りにしつつある。では、具体的にどのような研究が行われているのだろうか。以下、最新の研究成果を紹介しながら、AIがプレーメイカーをどのように評価しようとしているのかを見ていこう。

パスの能力を物理学の法則で解明

 プレーメイカー評価の新時代を象徴するのが、リバプールのデータサイエンティスト、ウィリアム・スピアマンらによる研究だ。彼らは2017年に発表した論文”Physics-based modeling of pass probabilities in Soccer” [2]で、物理学の法則を応用してパスの成功確率を予測するモデルを提案した。

 このモデルの革新的な点は、ボールの軌道だけでなく、味方と相手の位置、速度なども考慮してパスの成功確率を算出する点にある。具体的には、ボールの軌道を物理学的にモデル化し、それに対して各選手がどのようにインターセプトできるかを計算する。例えば、パスを受ける味方選手の近くに相手選手がいる場合、パスの成功確率は低くなる。

 このモデルを使えば、一見困難に思えるパスでも高い成功確率を持つ可能性があることがわかる。つまり、プレーメイカーが持つ絶妙なパスを出す能力を、数値で表現できるようになったのだ。実際、このモデルはリバプールの補強戦略や対戦相手分析にも影響を与えたとされる[3]。彼らが2020年夏にチアゴを獲得したのも偶然ではないだろう。

「得点の匂い」を数値化する指標

 しかし、パスの成功確率を予測するだけでは、プレーメイカーの能力を完全に評価したとは言えない。なぜなら、チームにとって本当に重要なのは、そのパスが得点にどれだけ近づけたかだからだ。……

Profile

染谷 大河

東京大学総合文化研究科言語情報科学専攻博士1年。主に自然言語処理分野の研究に従事し、国際会議に論文複数採択。近年はサッカーにおける深層学習技術の応用研究やプロダクト開発にも従事。未踏クリエイタ。柏レイソルU-18出身、元U-15/16サッカー日本代表候補。WEBサイト:https://agiats.me