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代表アナリストが日々感じている、イタリアから「ファンタジスタ」「プレーメイカー」が消えた理由

2024.09.21

プレーメイカーは絶滅するのか?#2

インテンシティの重視、ビルドアップの機能分散が加速する現代サッカーに、果たしてプレーメイカーの居場所は存在し続けるのか?トニ・クロース、チアゴ・アルカンタラという時代を彩った名手が相次いで現役を引退した今、考える司令塔たちの未来。

第2回は、「イタリア代表選手のモニタリング、代表候補のスカウティングも行っているので、たくさんのイタリア人選手のプレーをチェックしている」という代表マッチアナリストのレナート・バルディが日々感じている、カルチョの世界から創造性を持った選手が生まれにくくなっている理由を、育成や社会環境の面から考えてみたい。

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今の育成ではフットボールインテリジェンスが軽視されている?

――前編では、リッカルド・モントリーボをゲストに迎えて、プレースタイルやタイプとしてのプレーメイカー、ゲームを作るという戦術的な機能としてのプレーメイカーという2つの側面から、現在に至るまでの変遷、変化を振り返りました。この後編では、プレーメイカーという機能を高いレベルで担い得るプレーヤーが生まれにくくなっている背景、その中でどんなプレーヤーがプレーメイカーという機能を担うようになってきているかなどについて、様々な角度から掘り下げていきたいと思います。

 前編の最後に、高いインテンシティ、速いスピードとリズムに支配されたモダンサッカーにおいては、プレーや展開の精度やクリーンさをあまり重視せず、むしろ力や強度によって強引に状況を解決する方向に向かっている、という話になりました。それについてもう少し話を聞かせてください。
 
バルディ「プレーやビルドアップそのものの精度、クリーンさというのは、パスの精度を保証するテクニックの高さはもちろんですが、ピッチ上の敵味方の配置から効果的に前進するために最適なルートを割り出し、二手先、三手先までをイメージするプレービジョンが不可欠です。そこで必要なのは、前編の最後に触れたスキャニングだったり、周辺視野だったり、ピッチ上の状況を常に観察し把握する能力です。

 例えば私はストリートサッカーで育った世代です。私が遊んでいた場所は建物と建物の間の道で、車が時々通るので、常に車が来ていないかを気にしながらプレーする必要がありました。そうした環境でのプレーは、最近の学習理論でディファレンシャル・ラーニングとかディストーバンスと言われているものと同じです。ピッチ上で実際には起こらないけれど、ピッチ上での振る舞いを助ける能力を開発し磨く機会になる」
 
――イタリアの近年の育成では、そうしたいわゆるフットボールインテリジェンスの側面が軽視されているということなのでしょうか。

バルディ「私はそう思います。今日より強調されているのは、インテンシティ、スピード、インパクトといったフィジカル的な側面です。プレーがクリーンでなくとも、パワーとスピード、インパクトの強さで打開できれば、効果的なプレーであることに変わりはない。テクニックやプレービジョンが物足りなくとも、それはプレー強度でカバーできる、という考え方です。最近、イタリア代表候補であるアタランタ育ちのCBカレブ・オコリ(レスター)の試合を何試合かチェックしたのですが、彼のプレーは確かに効果的なのですが、フィジカル能力に依存し過ぎている側面があります。読みやポジショニングでミスがあっても、それをスピードやインパクトの強さでカバーして、最終的に突破を許さない。彼が出すパスも、ボールが少し跳ねたりコースがずれたりするけれど、結果的には通っている。これは単なる一例ですが、全体的な傾向を反映していると思います」

今夏にアタランタからレスターへと加入したオコリ。9月シリーズでアズーリに初招集されていた

――特に育成年代では成長のスピードや体格差もありますから、フィジカルに頼ったプレースタイルはカテゴリーが上がっていくと壁にぶつかるリスクはありますよね。

バルディ「ええ。これはDFだけでなく他のポジションの選手にも当てはまります。プレーメイカーの機能を担う機会が最も多いセントラルMFにしても、トップレベルとそうでない選手の違いは、ボールタッチの繊細さやパスの質だけでなく、それ以上にパスを受ける際のポジショニングと身体の向きにあります。実際、グアルディオラやシャビ・アロンソのトレーニング映像でも、身体の向きを修正する場面がしばしば見られます。マンチェスター・シティやレバークーゼンのようなクラブですら、まだそれができていない選手がいるということです。

 それは、セントラルMFに対しても、育成段階から身体の向きのようなディテールや読み、プレー選択といったインテリジェンスの側面よりも、インテンシティの高さ、プレーの効果や効率性の方を重視する傾向が強まっている結果だと思います。完璧にクリーンなプレーをするよりも、1テンポ速くパスを通して前進する方が効果的だから、というわけです。守備においても、素早くスペースを閉じ、ボールを奪い、広いスペースをカバーできればそれで十分だと見なされる。それは、試合のインテンシティが高まり、プレーのスピードとリズムが速くなる中では、例えばジョルジーニョのような選手にとっては本来の持ち味を発揮できないリスクが大きくなるからです。モダンサッカーは体格、フィジカル能力、インテンシティへの要求が高い。それは確かです」

ウイングのスターリングに対してもトレーニングで身体の向きを事細かに指導していた映像が話題を集めたグアルディオラ

ロドリとブスケッツにみるタイプの違い

――リッカルド(モントリーボ)が前編で言っていましたが、このタイプのMFのプロトタイプはやはりロドリでしょうね。……

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。