「現代の理想はシティのロドリ」モントリーボとバルディのプレーメイカーをめぐる対話
【特集】プレーメイカーは絶滅するのか?#1
インテンシティの重視、ビルドアップの機能分散が加速する現代サッカーに、果たしてプレーメイカーの居場所は存在し続けるのか?トニ・クロース、チアゴ・アルカンタラという時代を彩った名手が相次いで現役を引退した今、考える司令塔たちの未来。
第1回は、お馴染みイタリア代表のマッチアナリストを務めるレナート・バルディが登場。ミラン時代の彼の教え子であるリッカルド・モントリーボをゲストに迎え、プレーメイカーの現在・過去・未来について語り合った。「シャビやピルロのようなプレーメイカーが減っているのは事実。しかし……」
モントリーボが感じてきたピッチ上の変化
――「プレーメイカー」という言葉は、イタリアでも中盤でゲームを作るセントラルMF、いわゆる「レジスタ」の類義語として使われてきましたよね。とりあえず定義するとしたら「ボール保持時に主にミドルサードで、数的、位置的、質的、関係的優位を作り出し、あるいはそれを利用してゲームを動かしコントロールする選手」ということになるかと思います。近年はその機能に特化した典型的なタイプのセントラルMFが減ってきている、逆に他のポジションの選手がその機能を担うケースが増えてきているというような戦術的変化が見られます。
今日はそのあたりを掘り下げていこうということで、そうしたタイプのセントラルMFとしてアタランタ、フィオレンティーナ、ミラン、そしてイタリア代表で活躍したリッカルド・モントリーボを、レナートがゲストとして呼んでくれました。リッカルドとレナートは、ミラン時代にコーチと選手という関係でしたよね。
バルディ「はい。リッカルドはサッカーを本当によく理解しているインテリジェントな選手で、プレーメイカーについて掘り下げようという話を聞いた時すぐに、彼に話を聞いたらいいんじゃないかと思ったんです」
モントリーボ「レナートとはいつも戦術的な議論をしていましたよね。今日もああいう感じでいいのかな」
――はい。今日はありがとうございます。よろしくお願いします。リッカルドはまさにセントラルMFとしてプレーメイカーの機能を担ってきたわけですが、キャリアを通して、あるいはキャリアを終えて以降も含めてどんな変化があったか、当事者としての立場から話を聞かせてください。
モントリーボ「僕がキャリアを始めた頃、プレーメイカーというのはその役割がはっきりと決まっていました。今最初に説明があったようなことを通じて、チームを動かし活かす選手ですね。その役割に特化し専門化しているスペシャリストであり、他のことはほとんどしないか、少ししか求められていなかった。でも今や、そうした考え方は終わりを迎えています。僕の現役時代もすでに最後の方は、そういうプレーメイカー像はすでに時代遅れになりつつありました。
当時レナートともよくそういう話をしたものです。トレーニングの中でも、SBがプレーメイカーの機能を担うような形でポゼッションゲームをやったりしていましたよね。1人のMFではなくピッチ上のすべての選手がその役割を担う必要がある、という話をしていたのを憶えています。実際今ではGKが、ビルドアップの起点になるという最もデリケートな仕事をしているわけで。
これは、モダンサッカーがもたらした決定的な変化の1つだと思います。以前ならもっぱらプレーメイカーの役割を担っていたようなタイプのMFにも、インコントリスタ(守備的MF)としてのフィジカル能力や守備力が求められるようになった。今『モダンなMF』と言う時には、ゲームメイク、前線への攻め上がり、自陣のスペース管理、ボール奪取、すべてを高い水準でこなせるMFを指しています」
――では、その理想的なプロトタイプは誰でしょうか?
モントリーボ「名前を挙げるのは簡単です。マンチェスター・シティのロドリです。EUROで我々が目にしたように、彼はまさにあらゆることができるMFです。自陣からゲームを作り、敵陣深くに攻め上がってミドルシュートを打ち、カウンターアタックを食い止め、ボールを奪う。ロドリは今の時代に求められている理想的なMFの姿を体現している。僕はそう考えています」
――より古典的なタイプのプレーメイカー、例えばシャビ・アロンソ、ピルロ、シャビ、あるいはモントリーボのような選手は、モダンサッカーの中でも違いを作り出せる、あるいは生き残っていけると思いますか?
モントリーボ「モントリーボはさておくとして(笑)、今名前が挙がった選手は本当に際立ったテクニックとプレービジョンを持っていました。それだけのレベルに到達していれば、現代でもトップレベルでプレーできると思います。ピルロは今でも違いを作り出すでしょうが、残念ながらピルロは世界に1人しかいません。ピルロやシャビほどのクオリティを持っていれば、今でも偉大なMFになれますよ。彼らはテクニックも優れていたけれど、それ以上に頭脳でプレーしていたから。頭の回転が速ければ、今でも違いが作り出せます。
今のサッカーはプレーのリズムもスピードも以前と比べてずっと高いので、1つのプレーに与えられた時間、求められる反応速度も圧縮されてきています。その結果として、プレーヤーにはアスリートとしてもより高いレベルの能力が求められるようになってきている。他方、フィジカルなスピードではなく頭のスピードが速ければ、違う形で優位を作り出すことができます。シャビやピルロのような選手にはそれができる」
――今回の特集の大きなテーマは、「シャビやピルロのような選手が減っているのではないか」という仮説があります。
モントリーボ「ええ。そういう選手が少なくなってきていることは事実です。それはモダンサッカーが違うタイプの能力を求めるようになっているからでもあります。考え、決断するための時間とスペースは、特に中盤ではどんどん少なくなってきています。それに対応できるフィジカルなダイナミズム、あるいは頭のスピードを持っていない選手にとって、中盤でプレーするのが難しくなってきていることは確かです。特にフィジカル面では、誰もが速く、強くなってきていますから。
もう1つ変わったのは、試合の準備がかつてとは比較にならないほど細かくなったことです。僕がキャリアを始めた当時は、ここまで詳細に対戦相手を研究し、試合を準備することはありませんでした。それも、ピッチ上で考える時間とスペースがあった理由の1つです。今ではすべてがオートマチックに行なわれなければならない。考えている時間がないので、次になにをするのか、常に頭の中で決まっていなければならない。それも、古典的なプレーメイカーが通用しにくくなった理由の1つです。よほど際立ったクオリティを持っていない限り、ゲームメイクだけに特化したタイプのMFは消えていくと思います」
育成の現状は「フィジカル重視」と「トレーニング進化」の天秤
――もともとの資質としてテクニックが高くプレービジョンにも優れ、頭の回転が速いけれど、フィジカルな能力が少し足りないタイプ、例えばピルロやシャビのようなタレントは、今後も育ってくる余地があると思いますか。フィジカル的なスタンダードが高くなってくると、そこに到達していない時点で足切りされていく可能性はないのでしょうか?……
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。