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キャリア15年の“道を照らす人”が見た「Jで活躍する外国籍選手の条件」とは?ベガルタ仙台の闘う通訳、ロドリゴ・シモエスさんインタビュー

2024.09.16

【特集】Jで活躍する外国籍選手の条件#6

若手を中心に海外移籍が加速し、選手編成の流動性が増している近年のJリーグだが、外国籍選手の国籍もヨーロッパや南米だけでなく、アジア(+オセアニア)、中東、アフリカなど多様化している。様々なバックボーンを持つ“助っ人たち”が日本に渡ってくる中で、Jリーグで活躍できるのはどんな選手なのだろうか? 各ケーススタディを掘り下げつつ、通訳や代理人の考察も交えて迫ってみたい。

第6回では、ベガルタ仙台のロドリゴ・シモエスさんに直撃。キャリア15年で数々の外国籍選手をサポートしてきた“闘う通訳”が見出す「Jで活躍する外国籍選手の条件」とは?

 「Jクラブの通訳」という天職につき、15シーズン目を迎えているロドリゴ・シモエスさん。ポルトガル語をメインに、時にはスペイン語通訳を担当した経験を持つ。2010年にジェフユナイテッド市原・千葉から始まった彼の仕事は浦和レッズ、V・ファーレン長崎、ベガルタ仙台と続いている。オファーは途切れることがなく、多くの外国籍選手の活躍をすぐそばで支えてきた。“闘う通訳”として、時に選手以上に強烈な個性を放つ彼に「Jで活躍する外国籍選手の条件」を聞いた。

通訳の役割は「サイコロジスト」で「メンタルアドバイザー」

――ロドリゴさんはこれまで多くの外国籍選手を支えてきました。Jクラブにおいて「通訳」の役割とはどのようなことですか?

 「すごく複雑な質問ですね。時々、自分の仕事って何なんだろうと考えます。“言葉を訳す”だけではないことは確かです。選手のメンタル、家族のケア、選手自身のピッチ外のことも見ておかなければいけない。サイコロジストでありメンタルアドバイザー、幅が広いと思います。僕らの役割は“選手がリラックスして、自分の仕事に専念できる”、その準備をすること。言語を訳すだけではなく、そばにいてあげたり、話を聞きます。そして、自分にできる限りの情報を彼らに提示する。そういうことが良い形でパフォーマンスにつながるように“道を照らす人”じゃないですか?」

――「通訳」という言葉では収まりきらない活躍ぶりです。言葉を訳すだけではないですよね。

 「間違いなく、それだけではありません。彼らが日本で暮らす上で、アイディアが浮かぶように提案することもあります。せっかく日本に住んでいるからには、楽しんでほしいし、食べ物にも挑戦してほしい。いろいろなお店につれていき『こういう味もあるんだよ』『こういう日本の文化もあるんだよ』と提示することによって、これは好き、これは嫌いという選択が生まれるんです。提示できるオプションが多い方が、オフ・ザ・ピッチの時間の充実につながり、それがオン・ザ・ピッチにも表れます。そう考えても役割は幅広いですね」

――外国籍選手がJリーグのクラブと契約し来日する。そこで生活する最初にぶつかる問題、壁はどういったものですか?

 「“食”です。食べ物の違いなんです。日本の料理は、例えばですがブラジルの料理とは大きく異なります。日本では生魚も食べます。味もそうですし、香り、箸を使って食べることなど、まったく違った食べ物の文化があります。もちろんフォークを用意してあったりもしますが、僕はせっかくだから、まずは箸を持たせて『まず口に入れてみようよ』と伝えます。匂いや見た目だけで判断しないように導きます。食べてみることで日本食への印象が変わります。口に入れることによって、奇跡が起こります。そして好きになったりするんです。今まで何人もの選手が『納豆は臭い、食べたくない』と言ってきましたが、口に入れてみて気に入った選手はそこから必ず納豆を食べるようになったりするんです。耳を貸してくれるタイプの選手だったら、必ず勧めます。それで気に入ってくれると『ね!得しただろう?食べてみて良かっただろう』と。それはお互いにとってご褒美のような時間ですね。チャレンジって重要なんですよ」

インタビューに応えてくれたロドリゴ通訳(Photo: Idumi Murabayashi)

――外国籍選手が日本の文化に馴染もうと挑戦する、それは食に限らないですよね?

 「そうですね。どこかに出かけるということもそうですし、電車に乗る経験も必要です。何でもチャレンジだと思うんです。僕が道を照らしてあげますが、では東京に行くとなった時に、車で行くのではなく、電車に乗ります。隣にいますが、チケットを買う操作は選手にしてもらいます。券売機で、『英語選択』をして、チケットを買う。何番線に乗るかも彼らに聞きます。探してもらうんです。どこの駅で降りるかも彼らに聞きます。そうすると、覚えるし、次からは自分で行けるんです。僕の仕事を楽にしたいわけではないです(笑)。彼らの自由をそこで広げてあげています。毎回、僕が近くにいると家族旅行ができないですからね。家族で出かける時に、いちいち横にロドがいたら嫌でしょう?」

――嫌ということはないですよ(笑)。

 「オプションをできるだけ多く提示してあげること。ぶつかる壁を少なくするために、彼らに日本で過ごすための引き出しを多くしてあげたいです。自立的に彼らが日本で生きられるようなレールを敷く手伝いです」

――では「メンタルアドバイザー」としてはどのようなことを感じますか?

 「他には家族と離れて日本に来るということでナーバスになりやすいです。心細いですよね。奥さんが日本に来てくれることも大きな支えですが、お父さんやお母さん、おじいちゃんおばあちゃんは遠くブラジルにいたりする。彼らにとって家族と過ごす時間は大事なのに、1年間くらいは会えないです。相当、意志が強くないと、シーズンを通して良い状態を保ち、海外で結果を残すのは難しいことです。家族が日本へ一緒に来てくれるということも非常に重要なことです」

――ナーバスになってしまったことによって、ピッチ上で生じる問題は、小さくはありませんね。

 「はい。フラストレーションが溜まると、繊細な選手は練習の中でそれをストレスに変えてしまいます。ちょっと仲間から指摘を受けた時に過剰に捉えてしまうんです。チームワークが求められるスポーツですが、上手くいかなくなってしまう。そういう寂しさが、トリガーポイントになってしまうことも多いです。だからそういったことが起きないために、外国籍選手、日本人選手がともに話す回数、ふざけ合ったり、じゃれ合う回数を増やしていきたいんです。お互いの言語がわからなかったとしても、通訳を介してもいいから、コミュニケーションの時間を取らせてあげたいし、選手たちには自発的にやってもらいたい」

――本当にたわいもない話やちょっとしたふれあいでも良いのですか?

 「ちょっとしたふれあいで良いんです。距離感を縮めたい。人間はお互いの特徴がわかると、ある程度許せるようになるんです。『こいつはこういう可愛いところがあるから』という思いは、何かがあった時に『まぁ、いいか』という気持ちにつながる。性格や特徴がわからないまま、他者に何かを厳しく言われたら、思わず歯向かいたくなります。それは誰でもそうです。コミュニケーションを取れば、わだかまりはなくなっていきます」

――それは、すべての人間関係に共通した話ですよね。「こういう人だもんな」と分かり合うといろいろなことがスムーズに行きます。

 「そう。『こういう人だもんな』なんですよ。そういうことはありますよね。普段から話していなくて接点がないと、何かが起こった時に、どういう風に対応すればよいかわからなくなってしまいます」

ベンチ前でマテウス・モラエスに指示を伝えるロドリゴ通訳(Photo: ©Vegalta Sendai)

日本人選手とどう関係を築く?言語習得は「プラスでしかない」

――外国籍選手から積極的にコミュニケーションを取ろうとする努力も必要ですが、日本人選手がいかに関わろうとするか、というところも必要な部分ですね。

 「はい。互いにリスペクトが必要です。『俺のことをリスペクトしろ』と思う人もいると思うんです。しかし、僕が幼い時から家族に言われてきたことは『人にリスペクトされたかったら、まずは自分からリスペクトしなさい』ということでした。それが当たり前だと思っています。人から何かをして欲しければ、自分からしてあげないと。それが相手を尊重するということです」

――相手を尊重することは互いに必要ですね。

 「彼らの場合、よその国に来て、自分たちの文化は通じない。例えば、ブラジルでは電車の中で電話することは普通のことです。でも、日本の新幹線の中ではできない。そういうところを、多少痛みはあったとしても、僕が注意してあげないと、と思っています。『日本の電車では電話NGだぜ。車掌さんに怒られちゃうよ』と。その伝え方も重要で、そこをおろそかにすると、彼らにとっては『今、家族と話しているところなのに』と小さな注意が大きなストレスになる。言い方や接し方を考えながら、リスペクトをしながら接していかなければいけないです。家族のように接しています」

――どのように日本文化を習得し、学んでいくか。日本人選手との関わりは重要ですね。……

Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。