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スパチョークはなぜJを目指したのか?ミシャと札幌に今不可欠な“タイの至宝”の国を背負う気概

2024.09.14

【特集】Jで活躍する外国籍選手の条件 #5
スパチョーク(北海道コンサドーレ札幌)

若手を中心に海外移籍が加速し、選手編成の流動性が増している近年のJリーグだが、外国籍選手の国籍もヨーロッパや南米だけでなく、アジア(オセアニア)、中東、アフリカなど多様化している。様々なバックボーンを持つ“助っ人たち”が日本に渡ってくる中で、Jリーグで活躍できるのはどんな選手なのだろうか? 各ケーススタディを掘り下げつつ、通訳や代理人の考察も交えて迫ってみたい。

5回は、来日から約2年、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が絶大な信頼を寄せる札幌のキーマンとなった26歳のタイ代表アタッカーについて。「とにかくどんな形でもいいから長くJリーグでプレーしたい」という、その強い思いの源とは?

「次の試合まで彼の起用を待っていたならば、その時にはもう私は監督ではなくなっているかもしれない」

 8月16日のJ1第27節、試合序盤に得た敵陣でのリスタートのクリアがペナルティエリア入口付近にこぼれると、最寄りにいたスパチョークが丁寧にフィニッシュへ。シュートは相手選手に当たりながらもしっかりとゴール右下隅へ飛び込み、北海道コンサドーレ札幌が先制に成功する。母国で“タイの至宝”と称される背番号19がもたらしたこのゴールが口火となり、チームは開始16分までに圧巻の3得点。最終的には5-3で勝利し、ともにJ2降格圏内にいるサガン鳥栖との直接対決を制してみせた。そして札幌はここから3連勝を果たすこととなり、その勢いを生んだのがまさにスパチョークの得点だと言えるだろう。鳥栖戦の2点目、3点目も彼が起点になったものだった。

 この試合は負傷明けの復帰戦だった。6月にタイ代表として臨んだW杯アジア2次予選で左太腿裏を痛め離脱。母国での治療を経ての10戦ぶりとなるリーグ戦だったが、その影響をまったく感じさせない大活躍。「ケガも治り、試合に出られたこともうれしいし、そしてその試合で得点までできたのだから言うことなし」と試合後は満面の笑みで振り返っている。

鳥栖戦のハイライト動画。開始10分の先制ゴールは0:30〜

 ただし、万全のコンディションだったわけではない。再発のリスクもあったためチームスタッフ内では鳥栖戦での復帰は見送り、次節からの起用を提案する声もあったという。だが、そこでメンバー入りを決断したのは指揮官だった。ミシャことミハイロ・ペトロヴィッチ監督は次のように決断の裏側を言葉にしている。

 「次の試合まで彼の起用を待っていたならば、その時にはもう私は監督ではなくなっているかもしれない。スパチョークは短い時間でも仕事ができる選手。そうした思いから私は彼をメンバーに入れることを決めた」と。そしてこうも続けた。

 「彼が短い時間で仕事ができるということを、今日の試合でわかってもらえたと思う」

 今季の札幌はシーズン序盤から下位に低迷しており、当時19位の鳥栖との直接対決に勝利してもなお最下位という低空飛行ぶりだった。プロサッカーの世界では、結果の出ていないチームには何が起きても不思議ではない。そんな中での「次の試合まで待てない」というミシャの言葉は重く、それだけスパチョークに大きな期待を寄せていたことがわかる。

 この東欧の名将にこれだけの賛辞を贈られるというのは特別なこととも言える。なにしろ「戦いに行く時には、信頼のできる人間と一緒に行く。それが私のスタンスだ」という監督である。その指揮官が起用を急いだのだから、いかにその信頼度が大きいかがわかる。そして期待通りに仕事をやってのけたのだから、見事な出来事と言うより他はない。

「ゴトビさんやポポヴィッチさんにいい報告をしたいですね」

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Profile

斉藤 宏則

北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。