長崎を牽引するエジガル・ジュニオに見る、外国籍選手が活躍する3つの条件
【特集】Jで活躍する外国籍選手の条件#2
エジガル・ジュニオ(V・ファーレン長崎)
若手を中心に海外移籍が加速し、選手編成の流動性が増している近年のJリーグだが、外国籍選手の国籍もヨーロッパや南米だけでなく、アジア(+オセアニア)、中東、アフリカなど多様化している。様々なバックボーンを持つ“助っ人たち”が日本に渡ってくる中で、Jリーグで活躍できるのはどんな選手なのだろうか? 各ケーススタディを掘り下げつつ、通訳や代理人の考察も交えて迫ってみたい。
第2回は、J2得点ランキング2位につけるV・ファーレン長崎のエジカル・ジュニオ。チーム5年目のブラジル人が息の長い活躍を続けられる理由、外国籍選手が前線を牽引する長崎のクラブ戦略も含めて考察してみたい。
スポーツの世界で外国籍選手とは特別な役割を期待される存在である。得点やアシストなどの絶対的な主軸としてのプレー、チームを引っ張るリーダーシップや経験を還元すること、チーム内に異なるスタイルを持ち込むアクセント役まで求められるものは様々だ。中には、その活躍が母国で取り上げられることでクラブの国際的な知名度向上を狙うケースも存在する。実に様々な特別な役割があるわけだが、そのすべてに共通するのは目に見える「成果」を要求されることだろう。
もちろん、外国籍選手の中にも例外的に「今」を強く要求されない選手はいる。将来的な主力としての成長や、他クラブへの売却による移籍金獲得を見込んで複数年契約を結んでいる若手などがそれにあたる。それでも、彼らは同年代の日本人選手に比べて与えられる時間がずっと少なく、要求されるレベルもより高いことが一般的だ。つまり、外国籍選手とはどこまでいっても「成果」を出すことが求められる存在であり、それを出し続ける者だけが文化も言語も違う世界で長く活躍できる。
一見すると地味な「背負える強さ」というスペシャリティ
V・ファーレン長崎でプレーするエジガル・ジュニオは、その「成果」を出し続けている外国籍選手の1人である。
2020シーズン途中にチームへ加入して以来、ここまでJ2でリーグ戦120試合に出場し48得点(2024年J2第28節終了時点)。一般的にストライカーと呼ばれる選手のノルマとされる3試合で1得点のペースをクリアして、今シーズンもJ2得点王争いを続ける活躍を披露中だ。
2019シーズンの初来日以降6年目で2ケタ得点に届かなかったシーズンが2回あるのは意外だが、2020シーズンはシーズン中にJ1からJ2への移籍した年で、それでも移籍前にJ1で3得点、移籍後のJ2では11試合で5得点を記録。10試合2得点に終わった2023シーズンも故障のためにプレー時間が546分と少ない。どちらも例外のシーズンと考えて良いだろう。
長崎加入以来、5シーズンに渡ってコンスタントに成果を出し続けているという点を踏まえれば、創設20年目を迎えたクラブの歴史にあって、初来日でクラブのJ1昇格に貢献し、今も活躍するフアンマ・デルガドや、外国籍でありながらキャプテンも務めたカイオ・セザールとともに語り継がれるべき選手である。
スピード、高さ、技術……。通常、外国籍選手の特徴というのはわかりやすいのが一般的だ。求められる役割が明確な分、必要とされる能力がハッキリしているためである。だが、エジガルの特徴は一目見てそれとわかるものではない。スピードや高さといった能力に突出したものは感じられず、技術的こそ高いものの、他を圧するようなレベルというわけではない。エジガル最大の特徴は、背筋の強さを生かした「相手を背負った時の強さ」である。
「めちゃくちゃに硬いんです。背中の筋肉がものすごい」とは、自身も現役時代にフィジカルの強さで知られ、FC東京や日本代表でも活躍したクラブOBの徳永悠平さんの言葉。その正しさを対峙した選手、特にDFは嫌でも理解することになる。ゴール前の競り合いでエジガルに背負われれば容易に動くことはもう不可能だ。エジガルの位置を動かすことも、自身が前に出ることもできはしない。
しかもこの背中の筋肉に支えられる体幹が容易に彼の態勢を崩させない。態勢を崩しながらシュートを打つことが少ないため、それがミスの少なさにもつながっている。ペナルティエリア内でエジガルにポジショニングを取られ、そこにボールが入ってきた時点で相手はゴールを奪われる可能性が格段に高まる。もう1人のFWフアンマがゴール前の空中戦で強さを見せる選手なら、エジガルは地上戦で力を発揮する。この一見すると地味だが着実に「成果」を引き寄せる特徴が、時にポゼッション、時に堅守速攻とスタイルが変化したチームで変わらず活躍できる理由なのだ。
「適応力」「メンタルの安定」「起用法」
そのエジガルを例に、外国籍選手が活躍する3つの条件について考えてみたい。……
Profile
藤原 裕久
カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。