躍進を導く覚悟と決断力。固定観念に縛られない“新時代の監督”が意識する選手との関わり方。いわきFC・田村雄三監督インタビュー(後編)
【特集】いわきメソッドの正体#10
「日本のフィジカルスタンダードを変える」――2016年から始まった革命は、瞬く間にJ2までたどり着いたピッチ上の成果、インテンシティが重視される世界のサッカートレンドの後押しも受け、日本サッカー界で独自の立ち位置を築きつつある。現在はレンタル選手の武者修行先としても評価を高めている「強く速いフィジカルを作る」メソッドの正体に、様々な関係者への取材を通じて迫っていく。
今回はいわきFCの革命を先導してきた田村雄三監督のインタビュー。後編では今シーズンのチームが繰り広げてきたここまでの戦いぶりを、ポイントとなったいくつかのトピックスにも触れながら、じっくりと振り返ってもらっている。
評価はシーズンが終わった時にしてもらえればいい
――ここからは今シーズンのお話を聞かせてください。現在(取材日:8月21日)は第27節終了時点ですが、12勝7分け8敗、40得点27失点で7位です。この成績は率直にいかがですか?
「もともと65得点以上、45失点以下という目標を置いている中で、中断明けの時にその数字とか、残り14試合でどういうふうに勝点を取っていかないといけないかという話はしたので、順位というよりは勝点と得点、失点の数字を追い掛けていますね。『この順位はどうですか?』と言われると、僕はあまり気にしていないというか、終わった時にどこにいるかが大事だと思うんです。
とは言っても、情報は耳に入ってきますし、常に順位表は見たりもしますし、今だったら『5連勝が掛かっていますが……』とか言われたりもするので、確かに状況はそうなんだけれども、そもそも自分たちは横綱相撲なんてできないと思っているので、自分たちから仕掛けなくてはいけないですし、自分たちから挑まないといけないとは常に思っています。
だから、この成績が上出来かどうかもわからないんですよね(笑)。自分たちより順位が上のチームがいるので、上出来とも言い切れないですし、まだまだできるとも言えないですし、ガラッと変わった選手たちでここまでできているからいいなと言うのも、もともといる選手たちに失礼な気がしますし、そういう意味でも自分では何とも評価できないんですよ。評価はシーズンが終わった時にどの順位にいるかで、皆さんにしていただければと思います」
――まあ実際に試合の前後のDAZNインタビューを見ていても、田村監督はそういうスタンスですよね。
「そうですね。そんな計算ができるようなチームではないですし、アウェイの負け試合で何とか追い付いたりすれば、『ああ、今日は引き分けで御の字だな』とは思うかもしれないですけど、基本的には全部勝ちに行っているので、場数を踏んでいない僕には計算なんてできないです。
他の監督さんってどうなんですかね?『そんなことまで考える余裕あるのかな?』って思っちゃうんですよ。僕はどこが相手でも変わらないと思っていて、絶対に勝てるゲームなんてないですし、絶対に勝てないゲームもないと思っていますけど、去年の途中から監督をやらせてもらった時には、どちらかと言うと下から追い掛ける方だったので、どっちが有利かと言えば、自分たちの方が有利だと思っていたんです。
上にいるとどんどん硬くなっていきますし、自分たちもある意味失うものはなかったので、『勢いは絶対にこっちの方があるな』と思ってやっていたんですよね。そのメンタリティを考えながらも、自分たちには横綱相撲できるほどの実力はないですし、とにかく一生懸命やらないといけないなと思っているだけなので、他の監督のマインドを聞きたいですね。『どういうマインドでやっているんだろう?』って(笑)」
――そこは人によるんじゃないですかね(笑)。
「そんな計算通りには絶対に行かないだろうなと思うんですけどね」
「前へのパワーが生まれないのは、ウチらしくない」
――このインタビュー時点での直近のゲーム(第27節)はアウェイの(ジェフユナイテッド)千葉戦ですけど、前半はアレだけ押し込まれていたのに、結果的に後半に3点を奪って、3-0で勝ってしまうと。それで4連勝を飾ったわけですよね。ああいう勝ち方ができる今のチームの流れや力は、監督としてどう感じているんですか?
「僕がインタビューで言った通りで、戦術的には『3バックから変則的な4バックになるやり方をしよう』と一応スカウティングを生かして言いましたけど、『これは4バックにした方がいいな』と思って切り替えたと。後半もまた『ミラーゲームにした方がいいな』と思って、[4-2-4]に切り替えたんです。
もちろんサッカーの指導者なので、勝つためにこの方がいいという戦術的な要素はあると思うんですけど、どっちかと言うと僕は『どうやればこの子たちの良さや、チームの良さを出せるのかな』とか、『こういう特徴があるのになんかもったいないな』とか思ってしまうんですよ。戦術にハメ込み過ぎてしまうと、もちろんそれもできなくちゃいけないんですけど、そこで選手がブレーキをかけているのがあまり好きではないですね。
躍動しないというか、前へのパワーが生まれないのは、ウチらしくないなと思っていて、それを言葉も使いながら、解放してあげた方が良さは出るかなと思っていますね。やっぱりみんな誰もが上に行きたいですし、プレーオフも狙っているので、こちらの言うことに応えようとしてくれる選手のパワーを汲んであげて、こっちが解放してあげないと、ちょっとうまくいかなくなっちゃうのかなと思うので、そういうことは気を付けています」
――そのお話をお聞きすると、ロアッソ熊本の大木武監督が、『自分はどの選手を見ても「もっとできる」と思う』と。『それをどうやってできるようにするかが指導者の仕事だ』と言っていたことを思い出しますね。
「それはわかりますね。確かに熊本の試合を見ると、みんな凄く自信を持ってプレーしますし、少し話は逸れますけど、この間ウチが福島ユナイテッドと練習試合をした映像を見ていた時に、ユナイテッドの印象がメチャメチャ変わったんですよ。フロンターレっぽくて、真ん中を突いて攻撃をしてきて、そのカラクリとか練習メニューもいろいろ聞いたり、堂鼻(起暉)も入ってきたので『どういう形でやってたの?』と聞いたりしたんですけど、ユナイテッドの選手の何が変わったかって、みんな自信を持ってプレーしているんですよ。ただ、基本的にサッカーが上手くなっているところで、それでも勝ち切れないのは、サッカーなので上手くなるだけでもダメですし、力強さだけでもダメなんだろうなって。
『選手を上手くさせなきゃな』と思う一方で、『試合に勝たなくちゃ意味がない』というのも十分わかっていますし、選手は勝ちたいですし、今は勝つことの意味の大きさも感じられますし、そうすると選手はみんな前向きになりますし、試合に出たい気持ちも高まってきますし、そこは常に考えさせられますね」
心掛けるのは「選手の良さを出すため」の決断と采配
――おっしゃったように千葉戦は前半の飲水タイムで4バックに変えたり、第26節の愛媛FC戦はやはり飲水タイムで3バックに入っていた堂鼻選手と石田(侑資)選手の左右を入れ替えたりしているじゃないですか。それに第24節の(モンテディオ)山形戦では[4-1-4-1]でスタートしながら、後半は選手を代えずに[3-5-2]にしたりとか、ゲームの中でパッパッと打っていく手の多さと、それが実際に試合に与えている効果を凄く感じているんですけど、そのあたりの手を打っていく決断に関しては、自分の中でどういうふうに捉えているんですか?……
Profile
土屋 雅史
1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!