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進撃のストライカーが歩むキングへの道。「いわきとJ1に行くことが一番なのかなと思っています」いわきFC・谷村海那インタビュー

2024.08.26

【特集】いわきメソッドの正体#4

「日本のフィジカルスタンダードを変える」――2016年から始まった革命は、瞬く間にJ2までたどり着いたピッチ上の成果、インテンシティが重視される世界のサッカートレンドの後押しも受け、日本サッカー界で独自の立ち位置を築きつつある。現在はレンタル選手の武者修行先としても評価を高めている「強く速いフィジカルを作る」メソッドの正体に、様々な関係者への取材を通じて迫っていく。

24節からはJ2昇格後初めてとなる4連勝を記録。確実にいわきFCはJ1昇格プレーオフ圏内を、その視界に捉え始めている。そんなチームをゴールという明確な形で牽引しているのが谷村海那だ。28節終了時点で、得点ランキングトップに立つ15得点を叩き出しており、リーグの中でも有数のストライカーとして、各クラブのサポーターからも認識されつつあることは間違いない。今回はおなじみの小磯佑輔が、そんないわきのエースの実像に迫る。

華麗なる転身。走れない「王様」から、いわきの「キング」へ

 子どもの頃から大の口下手で、目立つことが苦手。小学生時代には人前での発表を拒み続けたことで「自然と先生から当てられなくなった」という。そんな性格は今も変わらない。勝利後にサポーターと踊る「いわきおどり」では、いつもうつむき気味でどこか恥ずかしげ。DAZNのインタビューも「できればやりたくない」と苦笑いする。

 しかし試合となれば別人だ。今季はいわきにとどまらず、リーグで屈指の存在感を放っている。これまで積み上げた得点はJ2トップの15点。特に第24節・モンテディオ山形戦からの4試合で5得点を記録する大暴れで、クラブをJ2で初の4連勝に導いた。絶大な信頼を寄せてチームやサポーターが彼を呼ぶ、その愛称は「キング」。絶対的なチームの顔として、初のJ1昇格プレーオフ圏入りを狙うチームを牽引する。

 ただ入団当時から谷村を知る関係者やサポーターの中で、どれだけの人が今季の活躍を予想できただろうか。国士舘大から入団した当時のポジションはボランチ。恵まれた体格やサッカーセンスを併せ持ちながら「走れない」「プレーに安定感がない」などの理由で長く控えに甘んじてきた。「キング」の愛称も、かつては技術偏重で走らないという意味の「王様タイプの中盤」だったことに由来している。

 走れない「王様」がいかにして、いわきの「キング」となったのか。入団から今季の活躍に至るまでの道のりとこれからについて、本人へのインタビューに、スタッフやチームメートによる「谷村評」を交えてひもとく。

第27節ジェフユナイテッド千葉戦で先制点を決めた谷村。これで今季のゴール数を15点に伸ばし、J2得点ランク単独トップに躍り出た(Photo: ©福島民友新聞社)

好調の要因は勝利と自信の好循環。試合は「楽しんだもの勝ち」

――今季は絶好調ですね。充実した日々を送れているのではないですか?

 「そうですね。でもちょっと上手く行き過ぎです。流石にこのペースで得点できるとは思っていませんでした」

――得点パターンで多いのはワンタッチゴール。どんなことを意識していますか?

 「ツータッチもしている時間がないな、という感じですね。意識しているのは動き出しです。この前のゴール(第25節・ブラウブリッツ秋田戦)で言ったら2点目。相手DFの後ろにいて、相手の目線が切れる瞬間を見て、前に出ることができました」

――秋田戦の1点目も加瀬直輝選手のクロスにワンタッチで合わせた形でした。2トップの相方・有馬幸太郎選手がニアサイドに走り、それによって空いたスペースに入り込みました。

 「クロスでは必ず誰かがニアサイドに走ることとか、枚数を増やしてボックスの中に入ることとか……。タロウ(有馬)とは、こういったチームでやらないといけないことをお互いにやっています。今回はたまたま自分が得点したけど、タロウとか他の選手にも得点のチャンスはあると思います。まあ、でもかなり出来過ぎです」

――試合に臨む際の気持ちの持ち方に工夫はありますか?

 「いわきの練習はきつくて、嫌だと思うこともあります。でもこの練習をやっていれば試合では走れる。だから試合は楽しんだもの勝ちだと思ってプレーしています」

――そう思うようになったのはいつからですか?……

Profile

小磯 佑輔(福島民友新聞社)

1996年1月生まれ。大学卒業後の2020年、福島民友新聞社に入社。翌21年にいわきFCの担当記者となり、2度の昇格を取材した。小中高時代は打つより投げることの好きな野球少年。大学時代にサッカーの面白さに出会って以来、毎週の海外サッカー観戦を欠かさない。