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ファジアーノ岡山が「ファジアカ」を始めた理由。森保監督とも働いた塾長・久永啓が伝えたい新しいサッカーの見方

2024.08.17

日本と世界、プロとアマチュア…
ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線
#12

日本代表のアジアカップ分析に動員され注目を集めた学生アナリスト。クラブの分析担当でもJリーグに国内外の大学から人材が流入する一方で、欧州では“戦術おたく”も抜擢されている今、ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線に迫る。

第12回では、ファジアーノ岡山が世界初(?)であるサッカークラブ主催のファン・サポーター向け分析講座を開講した理由を探るべく、塾長の久永啓氏を直撃した。

「試合を盛り上げたい」想いに応えるためのファジアカ

――まずは2022年4月にファジアーノ岡山がアナリティクスアカデミアを開講した経緯を教えてください。久永さん自身はどのように関わられているのでしょうか?

 「僕の出身が岡山で岡山理科大学の教員として地元に戻ってきた時に、前職のデータスタジアム時代にお仕事をさせていただいた縁のある方々もファジアーノにいたので、まずは2021年から昨年まで3年間、フットボール本部のアドバイザーとしてクラブに関わっていました。その活動の中で、今まで僕がキャリアを通じて取り組んできた分析を生かしてクラブの力になれないかという構想を考えていたところ、ファジアーノとしてもファジフーズ(スタジアムグルメ)をはじめとするピッチ外で、ファン・サポーターを楽しませる様々な施策を講じて成果が出てきていたものの、よりピッチ内のサッカー自体の魅力も伝えて双方向から試合を盛り上げ、さらに観客動員数を増やしたいという想いがあることがわかったのがきっかけです。その入り口として観戦者のサッカーへの理解を高めていきたいという話になりまして、ファン・サポーター向けの分析塾として『ファジアーノ岡山 アナリティクスアカデミア』が実現しました。その略称“ファジアカ”の塾長を、現在も務めさせていただいています」

“ファジアカ”の久永塾長

――分析が盛り上がりに繋がっていくというのは面白い発想ですね。てっきりファン・サポーターの中からアナリストを養成するような本格的な講座なのかと思っていました(笑)。

 「実際に開講を発表した時は、他のクラブや他のスポーツのファン・サポーターからもそういう反応がかなりあって、0期生では10名程度の定員に100名以上の方から応募をいただいたんですけど、戦術を教えるようなプロのアナリスト養成講座ではないですね。確かに僕自身もサンフレッチェ広島でコーチやアナリストをしたり、データスタジアムでスポーツアナリスト育成講座をやったりしていましたが、むしろ分析と聞くとプロのアナリストだけが身に着けている専門スキルのように、敷居が高く聞こえてしまっているのがずっと気になっていたんです。僕からすれば、分析はサッカーへの入り口や関わり方を深める道具の一つにしか過ぎなくて、特にテクノロジーの発展で試合や練習の映像を手軽に見返せる昨今は、指導者や選手も自分で分析をするのが当たり前の時代。実際にコーチングエリアやピッチに立って目にした主観だけではなく、俯瞰で見渡した客観も大切にしています。そういう視点を増やすという意味での分析力をファン・サポーターも身につけていけば応援の仕方も広がって、今では戦術ブログを書かれている方もいらっしゃるように、盛り上がりに繋がっていくのではないかという考えです。だからファジアカは、分析の正解や不正解を教えているわけではなく、他のファン・サポーターの見方と照らし合わせながら、自分の視点を広げていくコミュニティにしています」

――募集要項を見ても「ファジアーノ岡山や岡山に想いのある方、分析を学んでみたいという意欲のある方」「サッカーの知識や経験、分析経験は不問」という最低限の条件しか設けていないのはそういう狙いがあるからなんですね。

 「一応、夜遅くに活動することもあるので『高校生以上』という年齢制限はありますが、その人のプレー経験や観戦経験、サポーター歴のような条件を絞ってこなかったのは、むしろバックグラウンドが多様な方がより視点が広がるからですね。実際に受講生の中には、趣味でよくスタジアムの最前列でカメラを手に選手の個人写真を撮ってSNSに投稿されている方もいらっしゃって、その方は選手一人ひとりの一挙手一投足を見ているんです。だから同じチームの特徴を分析する課題でも、僕ならつい『戦術が~』『原理原則が~』『構造が~』と調べてしまうところを、SNSも見ながら相関図が作れそうなくらい細かな選手の個性と関係性に関わる情報を集めてきていて、勉強になりました。そういう相乗効果を生み出して様々な目線でサッカーを見られるように、毎期募集している10名程度を『この人とこの人を組み合わせたら面白そうだな』と考えながら各3~4人のグループに分け、各週の月曜日に受講生全体のオンライン会を実施して分析の基礎を教えつつ、各自で課題に取り組みオンラインで火曜日以降に最低1度は各グループでお互いの分析を共有する機会を設けています」

「応援するチームが増えた」。対戦相手分析で湧く愛着の行方

――具体的にどのような課題を出されているのでしょうか?……

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista