重さから速さへ――いわきに導入された「VBT」とは?【友岡和彦S&Cインタビュー】
【特集】いわきメソッドの正体#3
「日本のフィジカルスタンダードを変える」――2016年から始まった革命は、瞬く間にJ2までたどり着いたピッチ上の成果、インテンシティが重視される世界のサッカートレンドの後押しも受け、日本サッカー界で独自の立ち位置を築きつつある。現在はレンタル選手の武者修行先としても評価を高めている「強く速いフィジカルを作る」メソッドの正体に、様々な関係者への取材を通じて迫っていく。
第4回は、今シーズンからストレングス&コンディショニングコーチ(S&C)に就任した友岡和彦氏に、『フィジカルスタンダード2.0』とも言える新しいトレーニング「VBT」について解説してもらった。
第2フェーズは、サッカーに使える筋力を鍛える
――友岡コーチは今シーズンからいわきFCに加わりましたが、加入の経緯を教えてください。
「僕の前職がドームアスリートハウスだった関係もあり、いわきFCの立ち上げから関わらせていただきました。当時は外の駐車場でトレーニングしていたこともありましたね(笑)。大倉代表取締役が『フィジカルスタンダードを変える』というコンセプトを打ち出したこともあり、その後もいろいろ相談を受けたり、やり取りは続いていました。今シーズンから第2フェーズの『フィジカルスタンダード2.0』を始めるということで、僕に正式にクラブに入ってほしいというオファーをいただきました。今までの取り組みで体を強くした、大きくした、速くした。それをサッカーにつなげたい、というのがクラブ側からのオーダーでした」
――1.0から2.0への変化をもう少し詳しく聞いてもいいでしょうか?
「今までのトレーニングで筋力は向上したのですが、サッカーに必要な身のこなしや素早い動きが備わっていないという問題意識があったそうです。ウェイトトレーニングは前後、左右、回旋といった一方向の動きになりがちですが、サッカーの試合ではいろんな方向に瞬時に体を操作しなければなりません。筋力の出力は備わりましたが、それをサッカーの動きに変換できていないということです。そこで今シーズンのテーマにしているのは体の使い方で、動作の効率性と僕らは言っていますけど、力を入れずに楽に最大限の力を発揮すること。具体的にはスピードを意識したトレーニングになります」
――以前のストレングストレーニングとは何が変わったのでしょう?
「メニューはほぼ同じです。ただ、スピードを測るデバイスを付けて、その数値にフォーカスするようになりました。何kgの重りを上げるのではなく、それをどのくらいのスピードでやるのかが重要。場合によっては目標となるスピードを達成するためのウェイトに下げてでも、スピードを出すことにこだわっています。単純な筋力トレーニングというよりも、神経系に刺激を与える反応のトレーニングと言えます」
――負荷を重さではなく、速さに求めるということですね。
「そうです。物理学で言う力はkgではなくニュートンです。F=maというニュートンの運動の法則ですね。mの物体の質量は自分の体重を含めた外部負荷で、aの加速度はスピードです。いくら重いものを持ち上げてもスピードがなければパワーは下がります。今はスマホのアプリで手軽にスピードを計測できるようになったので、五輪競技、他のプロスポーツも含めてスピードに重点を置いたトレーニングが主流になってきています。VBT(ベロシティ・ベースド・トレーニング)と呼ばれており、これをいわきでも取り入れています」
「ジャンプ」を重視する理由
――ベンチプレスやスクワットの際にスピードを測れるデバイスができたからこそ、可能になったということですよね。その他の数値もチャート式データを用いて見える化をしているそうですが、具体的にどのようなデータを計測しているのでしょう?
「垂直飛びなどのデータを取って、それを指標にしています。スピードは垂直飛びの数値と相関があり、アスリート能力のベースになる部分だと感じています。いくら重たいものを持てても飛べなければダイナミックに体を使えません。今年はジャンプ系の指標を重視していて、その数値は継続的にモニタリングしています。
ジャンプの多様化は今年の大きなテーマです。様々な形でジャンプのトレーニングをしていて、重点的に強化しています。一例として、垂直飛びを手なしで50cmという基準を設定してやっています。最初はそれをクリアするのが1、2人だったのですが、今は1/3くらいになってきています」
――友岡さんが就任して半年くらいですよね。急激にジャンプの数字が向上するのはなぜなんでしょう?……
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。