FEATURE

「俺は主役じゃない」岩尾憲。レジェンドの帰還は徳島に何をもたらすか?

2024.08.08

【特集】Jリーグ夏の新戦力、救世主は誰だ?
#1 岩尾憲(徳島ヴォルティス)

今夏も動きが活発化している移籍市場。経験をもたらすベテランから即戦力として期待を背負う実力者に武者修行で再起を図る若手まで、各Jクラブが補強した救世主候補たちの物語を番記者がお届けする。

第1回は、徳島ヴォルティスに帰還した岩尾憲をピックアップ。長くチームを支え、33歳で浦和レッズに異例のステップアップ。そこでアジア制覇を経験した36歳が再び徳島のユニフォームを身にまとう。序盤低迷していたチームは昇格プレーオフを狙える位置まで浮上してきた。帰って来たレジェンドへの期待は増すばかりだ。

 2024年6月27日、『岩尾憲選手完全移籍加入』という驚きのリリースが届いた。

 2021シーズンを終えて徳島を離れた時点で、その世界線は存在しないと思っていた。翌日に開かれた記者会見で黒部光昭強化本部長はその経緯を説明した。

 「4月頭に私が強化本部長に就任させていただき、まずは1カ月ほどチームの内外、トレーニング、試合を見させていただきました。その中でプラスしていかなければいけないポイントとして、早い段階で5月に岩尾憲選手にオファーを出そうと決めました。どういう形になるかわかりませんでしたが、クラブとして絶対に必要な選手だと伝えたい、ぜひ帰ってきてほしいという想いも込めました。

 クラブとしてできることとしては1日でも早くオファーを出して熱意を伝えることだと思いました。そこから2カ月ほど期間があった中で、いろんな意味で岩尾選手を悩ませてしまったかもしれません。ただ、本当に考えていただいて、クラブの想いに応えていただいて、今日、この会見ができています。戦力ということはもちろん、ピッチ外でも、今後のクラブに絶対にプラスになる人材だと確信しています」(黒部強化本部長)

加入会見でマイクの前に座る岩尾と黒部強化本部長(Photo: ©T.VORTIS)

“一目会いたい”岩尾加入の期待値

 その影響力は、まずは内向きというよりも外向きに大きく働いた。

 わかりやすい指標として来場者数が増加。対戦カードや曜日周りなどによっても集客が変動するという前提はありながらも、岩尾の登録が完了し、初出場の可能性が出た第24節・仙台戦(〇2-0)では5974人が来場した。前述の加入会見翌日に開催された第22節・長崎戦(△2-2)もジワリと来場者は増えている。加入会見時に「来場しますか?」と質問されて「はい」(岩尾)と回答したことが口コミで広まってスタジアムに来場された方も一定数いたのではないだろうか。岩尾自身は「いやいやいや、パンダじゃないんだから(笑)」と爆笑していたが、パンダを観に来るつもりではなかったにしても“一目会いたい”とか“うれしい”とか、最終的に人を動かすのは感情だ。……

Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。