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シャビ・アロンソはレバークーゼンの練習で誰よりも走っている。「永遠の二番手」を51戦無敗&2冠に導いた人心掌握術の正体

2024.07.31

【特集】新時代の名将、シャビ・アロンソ革命#6

かつてレアル・ソシエダ、エイバル、リバプール、レアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘン、そしてスペイン代表をピッチ中央から操った司令塔は、タッチライン際でも絶大な影響力を発揮している。いかに古豪レバークーゼンを立て直し、就任2年目にしてブンデスリーガとDFBポカールの2冠、そして欧州史上最長の51戦無敗を達成したのか。新時代の名将、シャビ・アロンソが巻き起こす革命を特集する。

最終回では「永遠の2番手」と揶揄されてきた負の歴史に終止符を打つ、勝者のメンタリティを古豪に植えつけたマネージメント術の正体に迫る。

「第一はマネージメント、その次に来るのが戦術だ」

 シャビ・アロンソは戦術家として優れているだけでなく、モチベーターとしても突出した能力を持っている。

 レバークーゼンが歴史を変えて、クラブ史上初のブンデスリーガ制覇を成し遂げる7カ月前――。2023年9月、『キッカー』誌は飛躍の要因をこう分析した。

 「シャビ・アロンソが就任以来、繰り返し使ってきた言葉、それは『メンタリティ』だ。バスク人監督は2シーズン目の指揮に向けて『メンタリティを構築したい』と明かした。最高の成功を収めるには、絶対成功するんだという強い意志、ハングリーさ、レジリエンス(回復力)、自発性が必要だからだ。

 (中略)

 チームがここまでうまくいっているのは、戦術面の成長に加え、選手たちのモチベーションが高まっているからである」

 同誌はスポーツ部門取締役シモン・ロルフェスの「チームのスピリットとキャラクターが大きく変わった」というコメントも引用し、「レバークーゼンは新たなマインドセットを手に入れ、負の歴史を終わらせようとしている」と結論づけた。

 その予想は現実のものとなる。レバークーゼンはブンデスリーガ初の無敗優勝を成し遂げ、さらにDFBポカールのタイトルも手にした。残念ながらEL決勝でアタランタに敗れて3冠とはならなかったが、「Vizekusen」(Vizeはドイツ語で「準」。永遠に準優勝どまりという意味)という揶揄は過去のものになった。

2001-02シーズンには史上初の3冠に近づいたものの、決勝でジネディーヌ・ジダンのボレーに沈んだCL、ブンデスリーガとDFBポカールの全大会で準優勝に終わっていたレバークーゼン。シャビ・アロンソ監督の下で2冠を達成するまでの獲得タイトルは、1987-88シーズンのUEFAカップ(現在EL)と1992-93シーズンのDFBポカールのみで、栄冠から31年間も遠ざかっていた

 選手やスタッフ、レバークーゼンに関わるすべての人のマインドセットが変わったことが、歴史を変える最大の要因になったのである。言うまでもなく戦術は大事だが、「自分たちが優勝できるはずがない」という思い込みを覆さなければ、どんな革新的なアイディアも機能しようがない。

 実はすでに就任時、シャビ・アロンソ自身、「戦術よりもマネージメントが鍵になる」と予言していた。2022年10月の就任会見のことだ。

 「最も大事なのは、選手たちに信じさせることだ。監督は練習によって、選手たちに日々成長できると感じさせなければならない。監督の知識とリーダーシップが成長の助けになると感じさせなければならない。チームづくりで第一に来るのはマネージメントであり、その次に来るのが戦術だ」

就任会見時のシャビ・アロンソ監督

友達であり手本でもありながら…ジャカが感じる「公平性」

 では、シャビ・アロンソは「永遠に優勝できない」と思い込んでいたクラブにおいて、どんなマネージメントを実行したのか?……

Profile

木崎 伸也

1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。