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日本代表とスイス代表もレバークーゼンを模倣?シャビ・アロンソは新たな戦術スタンダードを生んだのか

2024.07.29

【特集】新時代の名将、シャビ・アロンソ革命#5

かつてレアル・ソシエダ、エイバル、リバプール、レアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘン、そしてスペイン代表をピッチ中央から操った司令塔は、タッチライン際でも絶大な影響力を発揮している。いかに古豪レバークーゼンを立て直し、就任2年目にしてブンデスリーガとDFBポカールの2冠、そして欧州史上最長の51戦無敗を達成したのか。新時代の名将、シャビ・アロンソが巻き起こす革命を特集する。

第5回では、そのサッカーが新たな戦術スタンダードとして定着するか否かを、比較される日本代表とスイス代表と重ね合わせながら、らいかーると氏と占っていく。

 トレンドとスタンダードは、表裏一体のようなものだ。流行のファッションが円環するように、大切なことは姿を変えて何度も眼の前に現れてくる。サッカーの世界にもピッチに現れたり消えたりしていく移り変わりがあり、その都合の良い部分が取り入られていく。気がつけば多くのチームの肉となり骨となり、いつの間にか常識と化しているのが現実だろう。

 近年で最もトレンドからスタンダードへと定着しつつある戦術は、ロベルト・デ・ゼルビに率いられたブライトンから始まったのではないだろうか。相手の配置に合わせて最低限の配置の優位性を得られるように、自分たちの配置を可変させてから発動する定められたパス交換による前進と、突然のロングボールによる速攻は新たなボール保持のスタイルとして全世界でコピー、もといカバーされることとなった。

 一方2023-24シーズンに最も話題を掻っ攫ったのは、シャビ・アロンソ率いるレバークーゼンだろう。EL決勝でアタランタの前に屈することになったが、史上初の無敗でブンデスリーガを駆け抜けた優勝は、「結果が出なければ意味がない」論者を黙らせることになった。どんなに先進的で、魅力的で、やって楽しい、見て楽しいサッカーだったとしても、DFBポカールを含めた2冠という最終成績が伴わなければ、ここまでの大喝采を浴びることはなかっただろう。

ブンデスリーガの優勝トロフィー、マイスターシャーレを掲げるシャビ・アロンソ

似て非なるシャビ・アロンソとグアルディオラ

 しかしシャビ・アロンソのサッカーは、これまでのどのように全体の配置を決め、ボールを循環させ、その中で遊びを入れていくかという、現代サッカーのボール保持の文脈からは少し離れている。

 その多くがペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティを元ネタとしていて、猫も杓子も[3-2-5]をベースに、様々な個性やチームの色をつけていくスタイルだ。5レーンに前線を並べながらも、固定的な配置から動かすことで相手に対応を迫る形が最もポピュラーかもしれない。5バックで待ち構える対策には、後方支援を充実させたり、「6人目」が登場したり、中央3レーンでスペースメイクとスペースアタックを繰り返したり、大外レーンとインサイドレーンにいる選手がポジションチェンジしたりと、多彩さを伴いながらその派生形が世界中に現れてきた。

8年間の指揮で17ものタイトルをマンチェスター・シティにもたらしているグアルディオラ監督

 一方でシャビ・アロンソのサッカーは、ボール保持者中心主義の様相を見せている。……

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。