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シャビ・アロンソ戦術の普遍性と特色。「5-2-3のミドルハイブロック」と「非対称なポジショナルプレー」

2024.07.27

【特集】新時代の名将、シャビ・アロンソ革命#4

かつてレアル・ソシエダ、エイバル、リバプール、レアル・マドリー、バイエルン・ミュンヘン、そしてスペイン代表をピッチ中央から操った司令塔は、タッチライン際でも絶大な影響力を発揮している。いかに古豪レバークーゼンを立て直し、就任2年目にしてブンデスリーガとDFBポカールの2冠、そして欧州史上最長の51戦無敗を達成したのか。新時代の名将、シャビ・アロンソが巻き起こす革命を特集する。

第4回は、「一つひとつの仕事の質が高い」というように現代サッカーの定石を押さえた上で、ドイツという環境要因から逆算された攻略法でバイエルンから覇権を奪ったシャビ・アロンソ戦術をエリース東京監督の山口遼が分析する。

 51試合連続無敗記録という、記録的な成績を残してブンデスリーガを制したレバークーゼン。シーズンの有終の美を飾るはずだったEL決勝こそアタランタに敗れてケチがついたものの、その圧倒的な強さは監督を務めたのがシャビ・アロンソだったことも相まって話題を呼んだ。特にシーズン終盤は、試合終盤に劇的な得点を決めて無敗をキープする展開が続いたこともあり、文字通り神がかり的な雰囲気すら漂わせていた。

2022-23シーズン途中に降格圏内に沈んでいたレバークーゼンの再建を託され、就任2年目でクラブ史上初のブンデスリーガ制覇へと導いたシャビ・アロンソ監督

革命家グアルディオラの登場と重ね合わせてしまうが…

 現役時代のポジションも含めて、名将ペップ・グアルディオラがバルセロナに現れた時の姿を重ね合わせてしまうが、彼らと比較するとレバークーゼンに残した結果ほどの「革新」があるかと問われると疑問が残る。

 ボールを持てば一人ひとりが上手く、配置も整理されている。守備も[5-2-3]でハイインテンシティ、切り替えの強度も高い。各局面を見ていくと、強いチームとして備えているべき特徴を満遍なく揃えており、いわば現代サッカーの定石を押さえた「普通に強い」チームだ。基本的には非常にオーソドックスかつシンプルで、一つひとつの仕事の質が高いという印象を受ける。

 これは今日におけるフットボールのコモディティ化の傾向を示していると見ることもできる。数年前は対照的なスタイルとして語られたマンチェスター・シティとリバプールが、それぞれの長所を相補的に補い進化した結果、似たようなスタイルに落ち着いたように、今日のフットボールは急激に「正解のフットボール」が定義されつつあり、ともすれば没個性的かつ画一的なチームであふれ返る「金太郎飴」のような状況に近づきつつあると言えるかもしれない。

選手時代にバイエルンで2014-15から15-16までの2年間、ペップ・グアルディオラに師事したシャビ・アロンソ監督

 そうなると、各チーム間のスタイルや哲学による差分が小さくなる分、大きな差を生み出すには「選手の質」で差別化するしかなくなり、平たく言えばこれは選手の獲得に注ぎ込める資金力の差に直結すると言える。現場での工夫の余地が少ない退屈なエンターテインメントになってしまう危険性もあるということだ。

 だが、むしろドイツ国内という文脈で言えば、今季のレバークーゼンの優勝はバイエルンの圧倒的1強体制を覆したという点でセンセーショナルであり、資金力と単純な選手の質だけで勝負が決まる、すなわち「試合の勝敗は試合が始まる前に決まっている」わけではなく、フットボールの現場でのトレーニング、工夫、努力といったものの重要性をむしろ際立たせる結果と言えるだろう。

 さらに言えば、むしろメガクラブに比べれば限られたと言えるバジェット(予算)で、これだけチームのスタイルにフィットする選手を何人も獲得したという点では、スポーツディレクターのシモン・ロルフェスを含むフットボール部門の貢献は非常に大きいと言えるだろう。彼らの果たした貢献こそまさに「工夫の勝利」であり、単に資金を注ぎ込み、市場価値の高い選手を獲得するのが正義ではなく、スタイルにフィットする選手を探し出す「フットボールを見る目」こそが正義であるとあらためて教えてくれたと言える。

ブンデスリーガ第29節ブレーメン戦(○5-0)で優勝を決め、ロルフェスSDに手を回されながら喜びを爆発させるシャビ・アロンソ監督

意外に低いポゼッション率とドイツという環境要因の関係

 さて、フットボールの現場に話を戻そう。

 一見すると手堅く安定感がありオーソドックスに見える、さらに言えばペップのフットボールの“薫り”は感じさせつつもまったく同系統とは言い難いシャビ・アロンソのフットボールにはどのような特徴が隠されているのかを分析してみるのは、このようなフットボール界全体の流れから鑑みても面白いかもしれない。……

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd