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「怖がってちゃ何も始まらない」開幕デビュー弾から5カ月、安齋悠人が実感したプロの壁と京都の絆

2024.08.07

【特集】ポストユースの壁に挑むルーキーたち #6
安齋悠人(京都サンガF.C.)

高卒Jリーガーが試合経験を積む場がない――「ポストユース問題」が深刻化している。J1で出番を得ることは容易ではなく、J2J3にレンタルしても必ずしもうまくいかない。近年、ルーキーイヤーからJ1で活躍しているのは松木玖生(FC東京)や荒木遼太郎(当時鹿島)が目立つくらいだ。有力選手の大学進学や欧州移籍が加速しているのも、この問題と無関係ではない。彼らはプロでどんな壁に直面し、それを乗り越えようとしているのか。ユース年代を卒業したプロ1年目のルーキーたちの挑戦に光を当ててみたい。

6回は、J1リーグ開幕戦で高卒新人として26年ぶりの快挙を達成した安齋悠人。高校選手権で注目を浴びた19歳のアタッカーは、その後プロの壁にぶち当たりながらも、日々サッカーの厳しさと楽しさを味わい、京都での競争や欧州トップクラブとの対戦を通して、自らの進むべき道を切り開いている。

 2024シーズンが幕を開けた2月末のJ1第1節。各地で様々なゴールやトピックが生まれる中、安齋悠人のプロ初ゴールが大きな注目を集めた。尚志高校(福島県)から入団した18歳(当時)のMFは、敵地の柏レイソル戦(1-1)で先輩たちを押しのけてベンチ入りすると、1点ビハインドの89分に交代出場でピッチに立つ。そしてアディショナルタイムに入った94分、FKのこぼれ球を蹴り込んで、劣勢だったチームに勝ち点1をもたらす値千金の同点ゴールを決めた。高卒ルーキーが開幕戦でJリーグ初出場と初得点を記録するのは城彰二(1994年/ジェフユナイテッド市原)、高原直泰(1998年/ジュビロ磐田)に続く史上3人目だ。京都サンガF.C.としても大卒新人の野口裕司(現セレッソ大阪強化部)や内藤洋平(現鎌倉インターナショナルFC)が開幕弾を挙げたことはあったが、高卒新人ではクラブ初の快挙となった。

 その後も京都を率いる曺貴裁監督は安齋をベンチ入りさせ、少ない時間ではあるが出場機会を与え続けている。サイドに開いてボールを受け、自分の形に持ち込めば、長所であるドリブル突破はJ1のDFたちを苦しめていた。第6節・ガンバ大阪戦(0-0)ではプロ初先発を果たし、57分間をピッチの上で過ごした。チームは前節で2点リードを守りきれずに勝ち点を失い、そこから中3日という過密日程も先発起用を後押ししたとはいえ、期待の高さがうかがえる抜擢だ。続く第7節と第8節も交代出場で、終盤の切り札としてピッチへ送り込まれている。

一転、メンバー外の日々。裏目に出た鹿島戦の「冷静さ」

 いい滑り出しを見せたプロ1年目。しかし、順調なのはここまでだった。第9節以降はベンチにも入れない、メンバー外の日々が続くことになる。第24節までのリーグ戦でピッチに立ったのは、5月6日の第12節・FC町田ゼルビア戦(●0-3)だけ。一転して、出場機会がなくなってしまった。

 きっかけは第8節・鹿島アントラーズ戦(●0-1)のプレーだ。0-0の状況で71分に投入され、3トップの左FWに入った。だが、攻撃のギアを上げてほしいというベンチの期待とは裏腹に、安齋は目立った活躍を見せられない。それどころか、マッチアップした鹿島の右SB濃野公人に決勝点を奪われて敗れるという結果に終わった。試合後、濃野は得点を取るために「(流れの中で前線まで上がって)逆サイドのクロスに入って行っていいですか?」と味方に相談して、その形から決勝点が生まれたことを明かしている。もし安齋が濃野とのマッチアップで脅威を見せつけていれば、そこを捨てて前線に上がるという決断はできなかったのではないか。そんなことも考えさせられる試合展開だった。

 調子が上がらなかった原因は、自身にも思い当たる節がある。この試合へ臨むにあたり安齋は「ここまで自分が出た6試合を振り返って、積極的に仕掛けている反面、少し冷静さを欠いているかなと思いました。攻撃のアイディアを出すためには、熱さだけじゃなくて冷静さも取り入れてみようと思って、鹿島戦に挑みました」という考えを持っていた。結果的にこれが裏目に出る。

 「ピッチに入って最初のカウンター攻撃でボールを受けた時、濃野選手とプレスバックした右サイドハーフの選手に挟まれそうになったので、後ろを向いて中盤の味方にバックパスしたのですが、そこから残り時間でパフォーマンスを上げることができませんでした」

 いつもの安齋なら、多少強引でも恐れることなくドリブルを仕掛けていた可能性が高い。ベンチもそれを期待していたはずだ。それが0-0という状況や、アウェイの迫力がピッチ上の選手に襲いかかってくるカシマサッカースタジアムの雰囲気、そして劣勢の展開が続いて味方の消耗が激しい中で「無闇に仕掛けてボールを失って、またチームが守備に追われる状況は避けた方がいいんじゃないかと思った」という判断が、良くない方へ傾いた。京都の前線は競争相手も多い。安齋が自分の長所を発揮できず、チームも敗れた鹿島戦を境に、曺監督は別のアタッカーたちにチャンスを与えるようになった。

「まず熱さがあって、その中に少しの冷静さを加えていくことが大事」

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Profile

雨堤 俊祐

京都府出身。生まれ育った地元・京都を中心に、Jリーグから育成年代まで幅広く取材を行うサッカーライター。サッカー専門紙『EL GOLAZO』で2005年から京都サンガF.C.の担当記者として活動。その他、サッカー専門誌などでも執筆している。J-COMの「FOOT STLYE 京都」にもコメンテーターとして出演中。