J2に突如現れた《ネクスト三笘》。清水アカデミーの逸材、西原源樹のブレイクスルーは単騎突破の「その先」
【特集】ポストユースの壁に挑むルーキーたち#3
西原源樹(清水エスパルス)
高卒Jリーガーが試合経験を積む場がない――「ポストユース問題」が深刻化している。J1で出番を得ることは容易ではなく、J2、J3にレンタルしても必ずしもうまくいかない。近年、ルーキーイヤーからJ1で活躍しているのは松木玖生(FC東京)や荒木遼太郎(当時鹿島)が目立つくらいだ。有力選手の大学進学や欧州移籍が加速しているのも、この問題と無関係ではない。彼らはプロでどんな壁に直面し、それを乗り越えようとしているのか。ユース年代を卒業したプロ1年目のルーキーたちの挑戦に光を当ててみたい。
第3回は、清水エスパルスのアカデミーで育ち、クラブ最年少デビュー&最年少ゴールを記録した西原源樹。17歳の《ネクスト三笘》の可能性と課題に迫る。
末恐ろしい若者がJの舞台にこつ然と現れた。大卒や高卒の新人ではない。いまだ18歳に満たない現役の高校生――である。その人こそ、清水エスパルス(J2)のアカデミーが送り出した逸材、西原源樹だ。
まず驚いたのがロアッソ熊本を破った今季の開幕戦。いきなりベンチ入りを果たすと、83分にナンバー10のカルリーニョス・ジュニオとの交代でピッチに立った。その時点でスコアは1-1。勝負がどちらに転ぶかわからない緊迫した局面で使われたのである。つまりは“切り札”として――。秋葉忠宏監督がどれほどこの若者に大きな期待を寄せているか、容易に想像がつくはずだ。
最大の魅力は大胆不敵な単騎突破にある。左のワイドから鋭く仕掛け、敵の防壁をやすやすと切崩してみせる。ひとたびボールを持ったら、おいそれとは止められない。すでに“これ”という武器を持っているのは頼もしい限りだ。その破壊力を一度でも目の当たりにした者ならば《ネクスト三笘》の可能性を感じ取っても不思議はないだろう。
実際、三笘と同様、ドリブルの要諦とも言うべき“2つの変化”を心得ている。速度と方向の変化だ。急停止と急発進、突然の進路変更によって鮮やかに追手をかわす。本人が「三笘さんのプレーを参考にしている」と話す通り、対峙する相手の重心を巧みにずらして、一気に縦へと持ち出す様は確かに三笘の仕掛けとよく似ている。
鮮烈だったのはベガルタ仙台戦(第11節)で記録した初ゴールだ。ボックス内左に潜り込み、味方のパスからワンタッチで前を向くと、右から素早く寄せてきたDF小出悠太の股下にボールをくぐらせ、最後は逆サイドネットに蹴り込んだ。本人によれば「とりあえず(狙いは)ファーと決めていて、体を開いて打った感じ」だという。つまりはイメージ通りだったわけだ。
ボールを操る確かな技術とアイディアもさることながら、時間とスペースが限られた中でも、冷徹に敵の動きを見切って、たやすく手玉に取るあたりは見事の一語。この会心の一撃は同クラブの公式戦最年少ゴール(17歳4カ月4日)となった。
奥抜、小柏、そして…ファナティコスの系譜
清水のフロントもこの“恐るべき高校生”を高く評価し、去る6月6日にプロC契約を結んだ。西原とともに記者会見に臨んだ反町康治ゼネラルマネジャーは「J1昇格に向け、彼の力がキーになるのは間違いない」と期待を寄せる。現役高校生が同クラブとプロ契約を結ぶのは石毛秀樹(現ガンバ大阪)以来、実に12年ぶり。通算では3人目となる。……
Profile
北條 聡
1968年生まれ。栃木県出身。早大政経学部卒。サッカー専門誌編集長を経て、2013年からフリーランスに。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』の一員として活動中。