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ミドルブロックが主軸、SBの本格WG化、WG対策への対策…EURO2024戦術総括

2024.07.22

EURO2024注目マッチ分析#9
大会総括

6月14日〜7月14日にドイツで開催され、スペインの優勝で幕を閉じたEURO2024。グループステージから決勝ラウンドまで注目の試合を、各国の事情に精通するレギュラー執筆陣や戦術分析のスペシャリストが独自の視点で深堀り!

最終回では全51試合を見届けたサッカー指導者でもあるkeita氏が大会を総括。強豪国、中堅国問わず繰り広げられた熱戦の数々から浮かび上がる戦術トレンドとは?

「ミドルブロック主体型」スロバキアとジョージアの躍進

 2-1でスペインがイングランドを下した決勝の計3得点を合わせ、全51試合を終えて117ゴールが生まれたEURO2024。前回大会(142得点)より25ゴール少ない数字に着地した今大会は、ハイプレスでボールを奪いに行くチームが少なく、ミドルプレス/ミドルブロックを軸にするチームの多さが目立った。

 その理由として考えられるのは、まず欧州のリーグ戦やカップ戦が終了して息つく間もなく開催というタイトなスケジュールで、強度の持続が難しかったのが1つだろう。そしてもう1つの要因として挙げられるのがリスク管理だ。主要国際大会において失点の可能性をできるだけ減らすようにボール非保持の設計を組むのは当然の流れだが、グループステージ3位にも決勝トーナメント進出の可能性が残されているという、前々回大会から続く特殊なレギュレーションがより浸透したことで、いっそう守備に重きを置くチームが多くなったのではないだろうか。

 特に顕著だったのは、2大会連続ファイナリストのイングランド。スコアレス、同点後、リード後のボール非保持局面では連動してプレッシングに行くことがほとんどなく、[4-4-2]や[5-4-1]のブロックを形成して構え、まずは堅実にゴール前を固めるアプローチを取っていた。

ラウンド16イングランド対スロバキアで、ボールを争うロボツカとジュード・ベリンガム

 中堅国も組織化されたソリッドなブロック守備で強豪国を苦しめている。筆頭として挙げられるのはともに16強進出を果たしたスロバキアとジョージアだ。

 スロバキアはナポリで礎を築いたマウリツィオ・サッリ、そしてセリエA優勝に導いたルチャーノ・スパレッティの下でアシスタントコーチを務めたフランチェスコ・カルツォーナ監督の下、縦横コンパクトな[4-1-4-1]のブロックを形成し、素早いファーストDFの決定とディアゴナーレ&スライドの徹底で堅守を誇った。チームを支えた3センターの中でも、中央のスタニスラフ・ロボツカはライン間の管理からチャンネル(CB-SB間のスペース)とポケットの管理までこなしつつ、ボール保持局面ではアンカーとして舵取り役を十全にこなしてみせ、グループステージでは2度のマンオブザマッチを受賞している。

 初出場のジョージアは[5-3-2]のローブロックを敷き、その中の[5-3]が素早いファーストDFの決定とディアゴナーレ&スライドを行いつつ、2トップを構成するエースのフビチャ・クバラツヘリアと得点王に輝いたジョルジュ・ミカウターゼがFW-MFのライン間を非常に狭くするようにポジションを下げ、相手に迂回を強いることに幾度となく成功している。

 このファーストプレス隊がポジションを下げて相手の中盤を経由したサイドチェンジを許さない形はクラブレベルでも増加傾向。いずれは現在のマンチェスター・シティやアーセナルのように、そこからバックパスに合わせてプレッシングに移行していくチームも代表レベルで増えていくだろう。

グループステージ最終節ポルトガル戦でハイタッチするミカウターゼとクバラツヘリア

少数派の「ハイプレス主体型」、スペインが優勝した意味

 言い換えれば、ハイプレス敢行に踏み切ってボールを取り上げることに成功していたチームは少数派だったが、その1つであるスペインが史上最多4度目のEURO優勝を果たしたのは示唆に富む。

 新欧州王者が再確認させてくれたのは、ボール非保持においてチームとしてその瞬間にどのように振る舞うか、すなわち目的意識を統一することが大事だということ。敵陣で相手の前進を阻害しに行く/ボールを奪いに行くハイプレス、ミドルサードで陣形を1度セットして使えるスペースを制限したところから相手の前進を阻害しに行く/ボールを奪いに行くミドルプレス、できるだけ陣形を維持しつつゴールを守るミドルブロック/ローブロック。各フェーズにおいてチーム全体で目的意識を統一して振る舞うことが守備の瓦解を防ぎ、機能性へと繋がる。

 [4-3-3]を基本布陣とするスペインはパスサッカーで一世を風靡したイメージがいまだ根強く、ボール保持局面が取り上げられがちだが、今大会のチームはボール非保持局面のクオリティも紛れもなく出場24カ国中ナンバーワンだったのではないか。

優勝を告げる試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、喜びを爆発させるスペイン代表の面々

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Profile

keita

2000年生まれ。宮城県生まれ神奈川県育ち。サッカー指導者とベガルタ仙台サポーターと欧州サッカーウォッチャーの三刀流。グラウンドとSNS上でサッカーについてのインプットとアウトプットを繰り返す日々を送っている。