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スペイン新時代の個と組織の融合。イングランドは同点後、撤退するしかなかったのか?【EURO決勝分析】

2024.07.16

【特集】EURO2024 注目マッチ分析 #7
決勝:スペイン 2-1 イングランド

7戦全勝、完全優勝。714日にドイツ・ベルリンで行われたEURO2024決勝は、47分にニコ・ウィリアムスが先制、73分に追いつかれるも、86分に途中出場オヤルサバルのゴールで勝ち越したスペイン代表が2-1でイングランド代表を下し、2012年以来3大会ぶり、史上最多4度目の欧州制覇を成し遂げた。

 ドイツフランスとラスボスに近い相手を倒して決勝にたどり着いたスペイン。いつかのCLでのレアル・マドリーの境遇に似ている気がする。累積で出場停止の選手が出たり、ケガ人が出たりとすったもんだがありながらも、スペインらしい[4-3-3]を武器に大きな変化もなく過ごしてきたことは、チームの完成度の高さの証明になるのではないだろうか。

 組み合わせに恵まれた感がありながらも、死闘を繰り返してきたイメージが強いイングランド。変化の少なかったスペインと比較すると、スタメンや初期配置にも変化があり、よく言えば、試合ごとに成長を繰り返してきた印象だ。

 左SBがいないなら、左SBというポジションをなくそう!からの3バックは、慣れ親しんだ配置によって前線の選手の役割分担も同時に明確化する采配となった。なお、ルーク・ショーの帰還により、決勝では4バックスタイルで臨んでいる。右ウイングバックを担っていたサカをそのまま起用すればニコ・ウィリアムスとのマッチアップになるので、4バックへ戻したことは懸命な判断と言えるだろう

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イングランドのプレッシングのアシメ構造

 試合はイングランドのキックオフで始まった。サウスゲイト監督のチームが選んだ策はククレジャへの放り込みであった。チェルシーでプレーする左SBへのイングランドからのメッセージのように感じた。今日はサカをぶつけるから!覚悟するように!と宣言しているかのようなイングランドの振る舞いで決戦の幕が開ける。

 スペインのゴールキックでの再開によって、この試合で見られる噛み合わせ、両チームの思惑が早々に登場することになる。スペインはいつも通りに[4-3-3]でのボール保持を志向した。イングランドは[4-4-1-1]でハイプレッシングというよりは、ミドルプレッシングでスペインのボール保持への抵抗を狙った。平たく言えば、スペインがボールを保持し、イングランドがミドルプレッシングで対抗する局面がこの試合の中心になったということだ。

 イングランドのプレッシングは、ビルドアップの出発点、スペインのCBやGKがオープンになることは許容する代わりに、ビルドアップの出口に対して執拗なプレッシングを仕掛けることを狙っていた。マンチェスター・シティのチームメイトであるロドリに対してトップ下のフォーデンがつきまとったように、それぞれの選手に守備の基準点を明確に定めることがイングランドの狙いのようだった。

ロドリとフォーデン

 イングランドのプレッシングに対するスペインの振る舞いの前に、イングランドの奇妙さについて触れておきたい。この奇妙さを利用してスペインが後半にゴールを決めた!ということが偶然なのか、必然なのかはそれぞれの解釈に委ねようと思う。2人のCBを相手にするケインには、攻撃方向の誘導を熱心に行う素振りもなければ、片方のCBをマンマークするなどの振る舞いも見られなかった。仮にそのような行動を取ったとしても、GKウナイ・シモン経由でもう片方のCBにボールを逃がすことができるスペインに対しては徒労に終わった可能性は高い。

 問題は右のサカと左のベリンガムの振る舞いの差にあった。スペインのゴールキックに対して、ベリンガムはCBへのプレッシングを行いたくて仕方がないようだった。途中でショーを呼び出し、実際にはショーは呼び出しに間に合わなかったのだが、強引にプレッシングを敢行し、スペインの攻撃を加速させるおまけつきだった。なお、ニコ・ウィリアムスとストーンズがペナルティエリア内で1対1をした場面以降は、ベリンガムの前でボールを奪いたい意欲は抑制されることとなった。

 我慢を繰り返したベリンガムは、これまたレアル・マドリーのチームメイトであるカルバハルの攻撃参加にはどこまでもついていく強い意思を見せる。一方で逆サイドのサカは、できる限り下がり過ぎないように守備の立ち位置を思考しているようだった。カウンターを考慮すればサカの判断はまるで間違っていないし、チームで許されているならばまったく問題はないだろう。いつだって相手のSBについていく必要はないが、さぼった時に悪いことが起こるのもサッカーオカルトである。

 しかし、ニコ・ウィリアムスが内側に移動し、ククレジャが高い位置を取る、またはその逆とポジションチェンジを繰り返すスペインの前に、サカもウイングバックのような振る舞いをしたりしなかったりと、少しだけの隙を見せていた。サカとベリンガム、両者の振る舞いの差はチームのプレーモデルに規定されているというより、個性の差と考えるべきだろう。では、みなさまはどちらの選手の個性をどのように利用するか?という話になる。

ククレジャとサカ
カルバハルとベリンガム

スペインの振る舞い

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。