もうドイツからテデスコのような指導者は生まれない?選手経験と学歴が優先される新ライセンス制度の是非
【特集】「欧州」と「日本」は何が違う?知られざる監督ライセンスの背景#7
日本の制度では20代でトップリーグの指揮を執ったナーゲルスマンのような監督は生まれない?――たびたび議論に上がる監督ライセンスについて、欧州と日本の仕組みの違いやそれぞれのカリキュラムの背後にある理念を紹介。トップレベルの指導者養成で大切なものを一緒に考えてみたい。
第7回は、ドイツの指導者ライセンス事情と選手経験と学歴を重視する新制度をめぐる議論について、現地からcologne_note氏がレポートする。
「ピラミッド型」から「階段型」に成長モデルが変化
2022年、ドイツサッカー連盟(DFB)は新しい指導者ライセンス制度を導入した。その背景には2020年のUEFAが改定した指導規約がある。この1998年に初めて施行されたルールで欧州サッカーの発展という命題の下、指導者数の増加、UEFA管轄領域内での指導者ライセンスの基準確立、無資格者からの子供たちの保護などを目指す中で、GKの指導者やフットサルの指導者に向けた専門分野の資格導入や、実践に基づいた学習方法の改善、育成年代の指導者養成の構造の拡大などを目的にアップデートが施された。その一環としてUEFAが新たに設定したのがエリートユースAだ。この新たなライセンスコースで指導者は思春期から成人期にかけてエリートからプロへと移行する選手への指導に焦点を当て、タレントの成長における次のステップに取り組むとされている。
しかし旧制度でC級、B級、エリートユース、A級、そして3部以上のチームの監督に求められる最高位のフースバル・レーラー(ドイツ語で「サッカー教師」の意)と裾野の広いグラスルーツから最高峰のトッププロレベルへとピラミッドのように5つにレベル分けされていたドイツには、UEFAエリートユースAに相当する階級が存在しなかった。そこでDFBは指導者養成プログラムを全面的に見直すことを決断したというわけだ。C級、B級、B+級、A級、A+級、プロと6つのライセンスに分けられた新制度で、従来のピラミッド型から階段型へと成長モデルを切り替えている。
その狙いは育成向けの指導と大人向けの指導で養成をはっきりと区別することだ。選手の成長が求められるユース年代の指導と、チームの勝利とマネージメントが求められる成人の指導では、必要とされる役割と能力がそれぞれ異なる。それぞれのキャリアパスに応じて、指導対象の年齢やパフォーマンスのレベルに応じた技能と知識を身につけられるように、C級では「子供、ユース、大人」、B級では「ユース、大人」と分かれたプログラムが用意されている。さらにエリートユースに代わるライセンスとしてB+級、フースバル・レーラーに代わるライセンスとしてプロが登場。そしてUEFA指導規約に合わせてA+級が新設された。
従来のB級→旧エリートユース→A級→だけでなく、B級→A級、B級→B+級→A級、B級→B+級→A+級と最上位ライセンスへとたどり着く道筋が広がったルートは「階段」で表現されている。原則としてドイツ国内のクラブに所属する満16歳であれば誰でも申し込めるC級より上の応募資格は以下の通りだ。……
Profile
cologne_note
ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note