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3種類のライセンスが併存!? スペイン人すら困惑する複雑怪奇なスペインの監督ライセンス制度【白石尚久インタビュー前編】

2024.05.25

【特集】「欧州」と「日本」は何が違う?知られざる監督ライセンスの背景3

日本の制度では20代でトップリーグの指揮を執ったナーゲルスマンのような監督は生まれない?――たびたび議論に上がる監督ライセンスについて、欧州と日本の仕組みの違いやそれぞれのカリキュラムの背後にある理念を紹介。トップレベルの指導者養成で大切なものを一緒に考えてみたい。

第3回では、UEFA-PROライセンスを保持しており現在はイングランド・チャンピオンシップのウェストブロミッチでアシスタントコーチを務める白石尚久氏に話を聞いた。前編では、スペインで監督ライセンスを取得した白石氏に、スペインの監督ライセンス事情やUEFA-PROライセンス取得の現状について教えてもらう。

2種類の国内ライセンスが誕生した理由

――本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます。さっそくですが、スペインの監督ライセンス制度はどのような仕組みになっているのでしょうか? 以前footballistaで掲載したインタビューでは「スペインは協会が出しているものともう1つ、国内のみで通用する別のライセンスがある」とのお話でしたが、そのあたりも含めて教えてください。

 「今お話にもあった通り、スペインにはスペインサッカー連盟(RFEF)が発行するライセンスと、日本で言う文科省と紐づいた国が発行するライセンスの2種類が存在しています。

 なぜこのような仕組みになったかというと、かつてRFEFが発行するライセンスはサッカーや戦術をどう教えるかという内容しか含まれておらず、フィジカルの指導やスポーツ心理といった分野や子供の教育に関する指導法がまったく含まれていなかったんです。しかし、スペインの社会的に学校の先生よりも影響力の大きいサッカーの指導者がそれではダメだということで、国が発行するライセンスが作られてこのような仕組みとなりました。

 発行元が違っているので取得の方法や対象者、資格にも違いがあり、RFEFのライセンスはRFEFのコーチングスクールで、国が発行するライセンスは国が認可した私設のスクールで取得することができます。RFEFのライセンスはスペインの永住権を持っているか、労働ビザで滞在していないと取得することができません。また、UEFAライセンスとの互換性があります。一方で、国が発行するライセンスは学生ビザでも取得が可能で、スペイン国内であればプロアマ問わず指導が可能になるのですが、国外では認められず互換性がありません。そのほか、国発行のライセンスは学業のレベルで言うと専門学校を卒業した扱いとなり、小学校の体育の先生もできるようになるという違いもあります。

 国発行のライセンス保持者が国外で指導をしたい場合、申請し試験を受ければRFEF管轄のライセンスへ変更できる制度があります。ただ、私設のスクールでのカリキュラムはそれぞれ独自のものになっていて、取得したスクールによって申請ができるところと、あらためて授業を受けないといけないところがあるんです。それが原因で、10年くらい前にスペイン全土でひと悶着ありました。

 また、最近になって国発行のライセンス保持者200~300人が署名をして、国発行のライセンスにも国外ライセンスとの互換性を認めてほしいという訴えを起こしました。ただ、管轄が違う以上この訴えが認められることはほぼないだろうと言われています」

――そうした事情があるとなると、最近は最初からRFEF発行のライセンスを取得するのが主流となっているでしょうか?……

Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。