若手アナリストが遭遇する現場のリアル。彼らはいかに信頼を勝ち取るのか?栃木SC・眞鍋将吾アナリストの場合
日本と世界、プロとアマチュア…
ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線#9
日本代表のアジアカップ分析に動員され注目を集めた学生アナリスト。クラブの分析担当でもJリーグに国内外の大学から人材が流入する一方で、欧州では“戦術おたく”も抜擢されている今、ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線に迫る。
第9回では、Jリーグチームに採用された若手アナリストを直撃。彼らはプロの現場に入ったとき、キャリアや経験では適わないベテランの監督やコーチ陣と仕事をすることになるが、そこでいかに信頼を勝ち取れるかは重要な課題だ。栃木SCでアナリストを担う眞鍋将吾の声を通して、現場のリアルに迫った。
筑波大学大学院での“養成期間”を経てプロへ
Jリーグの各クラブ、特にJ2には今、多くの若いアナリストたちが所属する。その多くが筑波大学出身者だ。J2栃木SCのアナリストとして2年目を迎える眞鍋将吾もその一人。
もともと選手としてプロを目指したが、鹿屋体育大学時代に周りとのレベル差を痛感して断念。その後、筑波大学大学院を受験し、履修生としての1年も含めて合計3年間、筑波大学サッカー部に指導者として帯同した。これがアナリストの道を進むきっかけだった。
「僕は筑波大大学院に3年間所属したのですが、先輩たちのほとんどがJクラブのアナリストとして就職していたんです。以前までJクラブのトップチームに関われることはないだろうと思っていたのですが、これならばチャンスがあるぞ、と。プロのトップチームに所属すれば、大きな経験になるだろうという考えもありました」
筑波大学にはアナリストになるベストな環境があった。必要なスキルを身につけた先輩たちが手取り足取り教えてくれ、Jクラブに所属する先輩アナリストたちと触れ合う機会もあり、自分のいる場所がプロの舞台と地続きに感じられた。
Jリーグから実際のJリーグのゲームの分析関連の依頼をされることもあり、さらにフィードバックも受けられるなど、養成される立場として至れり尽くせりだった。
「分析手法については、サッカー部の小井土正亮先生が教えてくれる基本的なポイントを押さえて学びました。サッカーを攻撃、守備、攻撃から守備、守備から攻撃の4局面に分け、そこにリスタートの攻撃と守備を加える。その考え方を土台に映像を作ることを繰り返しました。映像が長いと選手の頭に入らないので、できるだけ短くすること。相手の特徴によって、守備から見せるのか、攻撃から見せるのか、相手が失点しやすいウィークはどこか、逆に気をつけるべきストロングは何か。先輩たちから『この伝え方がいい』『この映像じゃないほうがいい』といった指摘を受けながら、サッカー漬けの3年間は本当に大きかったと思っています」
一人体制ゆえに新人でも“即戦力”が求められる
そんな“養成期間”を経て、眞鍋は2022年、J3の鹿児島ユナイテッドFCのアナリスト兼アシスタントコーチとして採用された。
なお、優秀なアナリストは機材にお金をかけるものであり、眞鍋も自己投資として分析関連の処理能力に秀でたパソコンを2年ローンで購入、いざプロの現場に入った。……
Profile
鈴木 康浩
1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。