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「やっぱり普段のコミュニケーションや人となりが、結局は情報の価値を決める」筑波大学蹴球部・小井土正亮監督インタビュー(後編)

2024.05.02

日本と世界、プロとアマチュア…
ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線
#8

日本代表のアジアカップ分析に動員され注目を集めた学生アナリスト。クラブの分析担当でもJリーグに国内外の大学から人材が流入する一方で、欧州では“戦術おたく”も抜擢されている今、ボーダーレス化が進むサッカー分析の最前線に迫る。

第7回と第8回では、前後編に分けて筑波大学蹴球部の小井土正亮監督に直撃。大学サッカーの現場で未来の分析官たちが日々養っているセンスとスキルを教えてもらいながら、日本国内におけるアナリスト輩出の総本山としてブランドを確立している理由を探ってみよう。

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デジタルネイティブの学生に感じるベースの違い

――2020年の本誌インタビューでは「日本のトップカテゴリーでも求められている基準のフィードバックをしている」とおっしゃっていました。

 「今は監督に就任して11年目なんですけど、ここに来る前はガンバ(大阪)にいましたし、日本の最前線ではこんなやり方をしているということは、基準も含めて伝えられていたかなと思いますけど、Jリーグに分析担当で入っていった者たちに話を聞くと、10年前や20年前には日本ではあまり普及していなかった『スポーツコード』(ゲーム分析ソフト)はほぼ全クラブが入れているらしいですし、ちょっと映像を見せてもらったら『ああ、こういう加工をするんだな』と思ったり、『より選手個人の特徴にフォーカスを当てて見せているんだな』ということがわかると、求められる業務内容が変わってきているなとは思います。

 自分自身もわかりやすさや伝え方は基準として持っていると思いますけど、新しいスキルとか、今現在のJリーグのトップレベルで求められている内容は、常にアンテナを張っていかないと、あっという間に取り残されてしまうと思うので、実際にJクラブで仕事をしている者たちに教えてもらうこともありますね。今まさにU-23日本代表に付いていっているアナリストの越智(滋之)と渡邉(秀朗)も、越智は4年前まで、渡邉は2年前までここにいた者たちで、彼らからもいろいろと教えてもらっているので、自分も学びながら学生たちと一緒にやっている感じが強いです」

――そのジャンルの進化のスピードも速いわけですよね。

 「速いですよ。ウチで言うと、サッカー研究室のゼミの中でプレゼン実習をやる時に、学生にテーマも決めさせて、映像編集もやらせて、『どんな目的で誰に説明するかを明確にしてプレゼンしてね』と言うと、それなりの映像がちゃんとできてくるんです。『映像編集できるんだ?』と尋ねると『YouTubeから映像を引っ張ってきて』『iPhoneで』『こうやって文字も入れられるんで』って。『ああ、デジタルネイティブ凄いな』って(笑)。本当に大したものです。それとアナリストが本当に仕事として求められるスキルとは違いますけど、我々の頃とはベースが違います」

Photo: Getty Images

筑波大からJリーグのアナリストが多数輩出されている理由

――これまで筑波大学の蹴球部からどのくらいの人材がJクラブへ羽ばたいているのでしょうか?

 「今のJクラブで働いているのは36人ほどになると思います」

――これだけ筑波大からアナリストが輩出されるのには、どういう理由があると思われますか?

 「他のルートでアナリストになった人たちがどういう認められ方をされているのかはわからないですけど、筑波の学生がそうなっていく流れを見ると、アナリストとしての力を認められてというよりも、筑波大にいるうちにJFAの指導者養成の補助学生をやったり、JFAから依頼された仕事をしたりする中で、その個々の仕事ぶりを見て、『人としてもいいね』という評価をもらったり、S級ライセンスの受講生の人と関わったことで、その受講生のクラブでアナリストを探している時に、補助学生をやっていた学生に声が掛かったり、という流れはあると思います。

 実際に自分も2003年にS級ライセンス受講講座の補助学生をやらせてもらって、その時に長谷川健太さん(現・名古屋グランパス監督)が受講生で、筑波大の先輩後輩ということもあって、健太さんがエスパルスの監督になった時に呼んでもらったんですよね。そうやって人の繋がりを作る機会があるというのは大きいなと。

 あとは簡単に“筑波ブランド”と言ってしまうのは良くないですけど、それぞれのクラブで先輩たちが良い仕事をしてくれているからでしょうね。『筑波で2年間ちゃんとコーチと分析をやっているのなら、大丈夫でしょう』ということで、自分のところに問い合わせをもらうと。ただ、自分も誰でも推薦できるわけではないので、『1回見てもらえれば』という形で紹介することはありますね」

――それこそ横浜FCの四方田修平監督もそういう流れですよね。

 「まさにヨモさんは筑波の大学院生で補助学生をしていたところから、日本代表のサポートをして、岡田武史さんに付いてコンサドーレに行きましたからね。だから、ヨモさんとか今はヴェルディにいる和田一郎さんが“走り”ですよ。ヨモさんは順天堂大出身ですし、和田さんは青山学院大出身ですし、大学の4年間を筑波大で過ごしていなくても、自分のキャリアを作っていけるという道筋を先輩方が作ってくれているのは大きいですよね」

横浜FCを率いて3年目を迎えている四方田監督。筑波大学大学院では田嶋幸三研究室に籍を置き、S級ライセンスの指導者講習を手伝っていたのがきっかけで、代表チームのスカウティング活動に参加するようになったという

――ちょっと言葉を拝借しますが、アナリストのいわゆる“筑波ブランド”の需要の高まりを感じたような出来事やタイミングはあったんですか?

 「そもそもこのジャンルで筑波大が先駆けだったのは間違いないと思います。自分がそういう世界に入ったのは20年前でしたけど、まだ映像はVHSでしたし、DVテープで撮影していた時代から、日本の分析の先駆けを筑波大の先輩方がやっていたのは大きい要因ですね。なので、こういう人材が出てきたのがきっかけだったというよりも、『日本でも分析って大事だよね』ということをやり始めた頃から、筑波大として関わっているのが大きいのは実際のところですよね。そこから脈々と、ですから」

大学サッカー界全体で取り組んでいる「アナリスト養成プロジェクト」

――最近になってアナリストという仕事がフィーチャーされるからそう思いますけど、もともと20年以上前の日本代表でも筑波大の大学院生だった四方田さんや影山(雅永)さんが、そういうお仕事をされていたわけですからね。そう考えるとアナリストが育っていく上で、大学サッカーというフィールドにはアドバンテージやメリットがあると思いますか?……

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!