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最前線で戦い、背中で引っ張る。それが背番号9番。中山仁斗は去年の屈辱を、今年の歓喜に変える

2024.04.28

[特集]日本人9番の潜在能力#5
中山仁斗(ベガルタ仙台) 

「9番」という背番号は、点取り屋=ストライカーという印象が強い。過去にフットボリスタでは「日本人ストライカー改造計画」と題した特集で世界に通用するストライカーとは何なのか?を考えてみたが、あれから4年が経ち、若手の海外移籍が加速する中で、今Jリーグの舞台で活躍する日本人9番の現状に注目してみた。現代サッカーを生き抜く多種多様な9番はどんなキャリアを過ごし、これからどこへ向かおうとしているのか――。 

第5回は、J2の中でもとりわけ背番号9が似合うベガルタ仙台のストライカー、中山仁斗。そんな彼が昨シーズンに味わった屈辱と、今シーズンへの覚悟とは。

「オレマサト!」 サポーターと共に、こぶしを突き上げる瞬間を求めて

 あれは昨年のシーズン前、キャンプ中のことだった。仙台のローカルスポーツ番組「スポルたん!NEO」(仙台放送)で、中山仁斗選手の「ゴールパフォーマンス」が決定した。サポーターから案を募り、取材中に通りがかった遠藤康選手もアドバイスを送って、中山本人も納得した上で、新パフォーマンスが決定した。胸の前で腕をL字に動かす。最後はこぶしを突き上げサムズアップ、「オレマサト!」と叫ぶ。スタンドのサポーターと一緒に盛り上がり……の、はずだった。

 前年の2022年に加入1年目でキャリアハイの14ゴールをたたき出したストライカーはクラブ内外の人々から大きな期待を集めていた。中山のゴールはJ1昇格への大きな起爆剤になると期待した地元テレビ局、仙台放送のディレクターたちは、シーズン初ゴール&初ゴールパフォーマンスをカメラに収めようと中山を追いかけ続けた。しかし2023年開幕から、待てど暮らせど、その時はなかなか訪れなかった。

 「番組でゴールパフォーマンスを作ったという責任もありました」。こう語るのは、中央大学学友会サッカー部でGKを務めていた松浦洋介ディレクターだ。先輩や同僚と3人で手分けし、初「オレマサト!」を見届けるべくすべての試合を追いかけた。遠いアウェーの地でキックオフ2時間前に中山がメンバーに入らないことを知った日もあった。それでも向かった。

 待望のシーズン初ゴールが生まれたのは開幕から2ヶ月が経過した第11 節・藤枝MYFC戦だった。「中山さん!」カメラを回していた当時のディレクター、押部悟さんは取材中にも関わらず、ピッチサイドでつい声を出してしまった。「仲間と喜び合った後、しっかりこちらを向いて『オレマサト』をやってくれました」。報われた。

 当の中山にその頃を振り返ってもらうと「いや、そんなに意識はしなかったですけど、去年はなかなかゴールが取れなかったんでね(笑)。今年はその分も決めて、オレマサトをやりたいですね」と前向きな声を聞かせてくれた。「今年は第2節の長崎戦でゴールを決めた時にちょっとやったんですけど、ここまで“アウェーでの同点ゴール”が多いんです。決勝ゴールだとパフォーマンスはやりやすいんですが、追いついたゴールでは、『次!』という感じになるのでできないですね。やりづらさがありますね」

 今季はすでにここまで3ゴール。もちろん、もっと取れると思っている。もっと一緒に喜び合えると思っている。本人も、サポーターも。

今年の藤枝戦でもゴールを決めた中山。クラブの公式Xでもゴール時には「オレマサト」のポーズが使用されている

「僕もゴールを取りたかった!」 愛息子もみちのくダービーデビュー

 V・ファーレン長崎戦では豪快なジャンピングボレー。横浜FC戦はヘディングでの一撃。藤枝戦では相手に体重を預け、上手くブロックしながら反転して左足で突き刺した。中山らしいダイナミックなゴールが生まれている。

 「意識してそういうゴールという訳ではないんです。頭とかボールが来たところに合わせて、そういう形になっているんですけどね。派手なゴールもいいですが、こぼれ球を決めるとか、どんなゴールでも決められたら嬉しいです」

 ここまですべてがアウェー戦でのゴールだ。「ホームで取りたい。去年もそうですが、アウェーでのゴールばかりですね。やるべきことをやったら結果がついてくると信じています。そこはブレずにしっかりやりたい」。黄金のスタンドを、歓喜で揺らしたい。その思いは常に持ち続けている。……

Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。