脳は現実と想像を区別しない。ケガの回復を早め、予防にも繋がる「神経言語プログラミング」の有効性【後編】
【特集】過密日程と強度向上による生存競争。ケガとともに生きる #13
サッカーにケガは付き物。“ともに生きる”術を磨いてきたサッカー界は、近年の過密日程やプレーの強度向上という変化の中で、ケガとどう向き合っているのか。予防や治療を通じて選手たちを心身両面でケアする様々な専門家の取り組みをはじめ、「サッカーとケガ」の最新事情を追う。
第13回は、イタリアNo.1のメンタルコーチ、ロベルト・チビタレーゼのインタビュー後編。ポジティブなイメージを反復することの重要性について、選手のタイプやケガの種類による違いを交え、さらに深堀りしてもらった。
→【前編】ケガの克服に重要な「ビジュアライゼーション」とは?イタリアNo.1メンタルコーチの“脳の筋力を高める”トレーニング はこちら
「デ・シルベストリは私と一緒にビジュアライゼーションを日々繰り返し、前十字靭帯断裂からの回復スピード記録まで出した」
――ここまで見てきたようなメンタル的なトレーニングを、困難を抱えることなく継続できる選手とそうでない選手がいると思うのですが、その差はどんな形で出てくるのでしょう。
「まずはっきりと表れるのは、回復のスピードです。ケガという状況に対してポジティブな思考、前向きなモティベーションを持てる選手は回復が明らかに早く、また予後のパフォーマンスも高い。自分の置かれた状況をネガティブに捉える心的状況から抜け出せない選手は、大きなストレスを抱えますし、リハビリテーションへの取り組みもおざなりになりがちです。前向きなモティベーションを持ってリハビリに取り組む選手は、それによって回復が加速します」
――もしロベルトのクライアントの中にそうした具体的な事例があれば聞かせてください。
「まず思い浮かぶのは、今はボローニャでプレーしているロレンツォ・デ・シルベストリのケースです。サンプドリアに所属していた時ですから、もう7、8年前の話になりますが、当時20代後半でキャリアのピークを迎えつつあった彼は、それまで数試合しか呼ばれたことのなかったイタリア代表に定着して代表のビッグトーナメント、具体的には2016年のEURO(欧州選手権)に出場することを、キャリアにおける最大の目標に設定していました。そしてようやくアントニオ・コンテ監督(当時)に招集されるところまで行ったのですが、そこで出場したクロアチア戦であろうことか前十字靭帯を断裂してしまったのです。ここで監督の信頼を勝ち取れば代表に定着し、翌年に迫っていたEURO2016に出場できるかもしれない、という重要な機会にです。
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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。