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W杯とサッカースタジアムの論点(前編)。FIFA基準の変化、日本での単独開催は可能か?

2024.02.28

なぜ、新プロジェクトが続々発表?サッカースタジアムの未来#14

Jリーグ30周年の次のフェーズとして、「スタジアム」は最重要課題の1つ。進捗中の国内の個別プロジェクトを掘り下げると同時に海外事例も紹介し、建設の背景から活用法まで幅広く考察する。

第14回は、サッカースタジアムのもう1つの論点であるW杯とどう向き合うのか。FIFA基準にみるトレンドの変化、そもそも日本での単独開催は可能なのかを考察してみたい。

 日本と韓国が史上初めての2カ国共催という形でW杯を開催したのは、2002年のことだった。今振り返ってみると、2000年代初頭という時代は、欧州のプロサッカーがスタジアムを主な舞台とする「都市/地域のスポーツ」からTVなどのメディアを主な舞台とする「グローバルなエンターテインメント産業」へと変貌していく、その移行期のさなかだったと位置づけることができる。

 それから現在まで20年あまりの間に、サッカーというスポーツ/ビジネスを取り巻く環境は大きな変化を遂げてきた。その影響はW杯というイベントそのもの、そしてその舞台となるスタジアムにも大きく及んでいる。それゆえ、日本は近い将来W杯を単独開催できるのか、という設問を通してスタジアムについて考える時には、まず前提となる環境がどのように変化しているのかについての検証が必要だろう。

拡大されたW杯に求められる「会場/Venue」とは?

 W杯そのものに関して言えば、最も直接的な環境変化は、開催規模の拡大である。次回の2026年北米大会から、W杯本大会の参加国は現在の32から48へと1.5倍に増える。1998年から、2002年日韓大会も含めて2022年カタール大会まで続いた32カ国制では、全64試合を10~12会場で開催するのが基本的な条件だった。しかし、2026年以降は試合数が104まで増えるため、会場数も14~16が必要となる。

 2026年大会に関して言うと、開催国が決定した2018年時点の当初案では、48チームを3チーム×16グループに分けてグループステージは3×16試合、ノックアウトステージがラウンド32から決勝まで31試合の計79試合というフォーマットだったため、総会場数は12となることが想定されていた。しかしその後2023年になって発表されたフォーマット見直しにより、グループステージが4チーム×12グループとなり、ここの試合数が6×12=72試合まで増加、総試合数も104試合と大幅に増えたため、総会場数も16まで拡大されることになった。

 ここで「スタジアム」ではなく「会場/Venue」という言い方を使うのは、それぞれの会場にはスタジアムだけでなく、出場するチームとオフィシャルのための宿泊施設とトレーニング施設、さらには観客の輸送や宿泊のためのインフラストラクチャーが整えられていなければならないためだ。FIFAがこの2026年大会に関して設定した会場に求められる基本的な要件は、下の図のようになっている。

●スタジアム収容人員
・開幕戦、決勝戦(1、2カ所):8万人
・準決勝(2カ所):6万人
・グループステージ、R32、R16、準々決勝(12~14ヶ所):4万人

●試合関連施設
・チーム宿泊ホテル:各スタジアムにつき2ホテル(候補は4ホテル)。4つ星以上。
・チーム練習場:各スタジアムにつき2カ所(候補は4カ所)。ホテルからバス20分以内の立地。

●観客向け宿泊インフラ(開催都市全体で)
・開幕戦:5100室
・グループステージ、R32、R16:1760室
・準々決勝、3位決定戦:3060室
・準決勝:6280室
・決勝:8080室

 W杯を開催しようという国ならば、開幕戦や決勝戦に使われる8万人規模、準決勝に使われる6万人規模のスタジアムを、それぞれ1つや2つ持っているものだろう。日本にしても、新国立(東京)、日産スタジアム(横浜)、埼玉スタジアム(埼玉)と、首都圏3都市にその規模のスタジアムが存在している。しかし、グループステージから準々決勝までを開催できる4万人規模のスタジアムを最低でも12会場ということになると、ハードルはかなり高くなってくる。

2002年の日韓W杯では計4試合が開催された埼玉スタジアム2002。画像はグループE第2節カメルーン対サウジアラビア戦で

 現時点でそれに該当するスタジアムは、札幌ドーム(札幌)、ビッグスワン(新潟)、カシマ(鹿嶋)、味の素スタジアム(東京)、豊田スタジアム(豊田)、吹田スタジアム(吹田)の6会場。となると、W杯を単独開催するという前提に立つならば、少なくともあと6つ、4万人規模のスタジアムを新設あるいは改築によって準備しなければならないということになる。

「サッカー専用スタジアム」という、もう1つの壁

 ここまではあくまで、W杯の会場となるスタジアムの「数」の話。もう1つ考慮しなければならないのは、スタジアムの「質」という側面だ。……

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。