抜群の走力を搭載した愛嬌あふれる重戦車。家泉怜依は札幌の「ミシャ式」にフィットする!
[特集]個人昇格選手の可能性
#5 家泉怜依(いわきFC→北海道コンサドーレ札幌)
近年だとFC岐阜からヴィッセル神戸にステップアップした古橋亨梧、松本山雅や水戸ホーリーホックで「J2最速」と言われた前田大然など、J2からの個人昇格でJ1、海外移籍、そして日本代表にまで登り詰めた例が増えてきている。ポテンシャルのあるサッカー選手は出場機会を得れば「化ける」。2024シーズンに臨む個人昇格組の可能性を古巣の番記者に解説してもらおう。
第5回は、ルーキーイヤーから2シーズンを過ごしたいわきFCで躍動し、北海道コンサドーレ札幌へとステップアップを果たした家泉怜依だ。
「やり残したことはない」。充実したいわきFCでの2年間
納得の個人昇格と言って良いだろう。
1年目からJ3の34試合中33試合に出場し、ベストイレブンに選出された。2年目の昨季もJ2の42試合中39試合出場と、ほぼフル稼働でチームの残留に貢献。チームは苦戦を強いられることもあったが、個人のパフォーマンスは際立っていた。
昨年の夏ごろから食事を見直したことで、体重をそのままに筋肉量を増やすことに成功した。身長185センチ、体重85キロの恵まれた体格はさらに一回り大きくなり、まさに「重戦車」。空中戦で無類の強さを発揮し、外国人FWも苦にしなかった。
昨季最終戦の後、ミックスゾーンに現れた家泉は「上手くいかずに苦しかったが、それでも良いシーズンだったと思う」と一年を振り返った。その笑顔からは、チームをJ2残留に導いた達成感がにじみ出ていたように見えた。
具体的なオファーについては言及できないだろうが、自己評価や見据えるキャリアを聞いてみたい――。そんな思いから、この日のために用意してきた質問を家泉にぶつけた。「いわきでやり残したことはありますか?」。返ってきた言葉で、いわきからの巣立ちを確信した。「もっと勝ちたかったし、(趣味の)釣りもしたかったですけど(笑い)……。やり残したことは特にないですね」
「行き先なし」からの逆転。鍵は走力強化
「優れた経歴も成績もない自分に声をかけていただき、共に戦ってくださったいわきFCには感謝しかありません」
北海道コンサドーレ札幌移籍のリリースで、家泉はこのようにつづった。流通経済大4年時にチームの関東大学リーグ1部優勝に貢献した家泉だったが、当時のJクラブからの評価は決して高くなかった。複数のJクラブの練習に参加したが、オファーが届かない。大学の同期が次々と内定を決めている中、家泉はリーグの終わる秋ごろまで行き先が決まらなかった。
「決まる気がしなくて、本当にどうしようかと……。いわきからのオファーがなかったら、普通に就職していたかも知れない」
クラブから獲得の手が上がらなかった要因の一つはスタミナ不足だった。空中戦の強さという武器を有していながら、それを90分間を通して発揮できなかった。
この点で、いわきFCは最適なクラブだったと言える。走りを専門に指導する秋本真吾スプリントコーチの下で徹底的に走り込んだ。……
Profile
小磯 佑輔(福島民友新聞社)
1996年1月生まれ。大学卒業後の2020年、福島民友新聞社に入社。翌21年にいわきFCの担当記者となり、2度の昇格を取材した。小中高時代は打つより投げることの好きな野球少年。大学時代にサッカーの面白さに出会って以来、毎週の海外サッカー観戦を欠かさない。