FEATURE

鍬先祐弥はボックス・トゥ・ボックスの猛者。神戸でも頭抜けた泥臭さと適応力で道を切り開く

2024.02.20

[特集]個人昇格選手の可能性
#4 鍬先祐弥(V・ファーレン長崎→ヴィッセル神戸)

近年だとFC岐阜からヴィッセル神戸にステップアップした古橋亨梧、松本山雅や水戸ホーリーホックで「J2最速」と言われた前田大然など、J2からの個人昇格でJ1、海外移籍、そして日本代表にまで登り詰めた例が増えてきている。ポテンシャルのあるサッカー選手は出場機会を得れば「化ける」。2024シーズンに臨む個人昇格組の可能性を古巣の番記者に解説してもらおう。

第4回は、地元の長崎に新卒で加入してからわずか3年でチームリーダーに成長した超ハードワーカー、鍬先裕弥だ。

キャリアを切り開いてきた開拓者

 鍬先祐弥は『開拓者』である。

 小学生のときから長崎県県選抜や九州選抜に選ばれ、長崎南山中時代には3年生のときに全国中学校体育大会でベスト8進出を経験。越県して入学した東福岡高では3年時に不動のアンカーとしてインターハイと選手権の二冠も達成した。

 高卒してすぐにプロ入りする夢は叶わなかったが、進学した早稲田大でも全日本大学選抜入りや関東大学リーグ優勝を経験して着実に実績を積み上げ、2021シーズンから地元クラブのV・ファーレン長崎へ加入。加入1年目からリーグ33試合に出場し、以降も中盤の主軸として活躍し続けてきた。

長崎加入初年度の鍬先(Photo: Hirohisa Fujihara)

 こう書くと、実に華やかなキャリアの持ち主である。一般的にはいわゆるサッカーエリートの部類に入るだろう。にもかかわらず、彼からは不思議とエリートっぽさを感じない。彼の気さくな人柄や泥くさいプレーぶりの影響もあるだろう。プロ入り後に監督や戦術が目まぐるしく変わるなかで、もがき、悩みながら、自身を適応させ続けてきた。

 どんなときも、苦しみながら、しかし懸命に、自分の居場所を切り開いてきた彼は、まさに『開拓者』なのである。

異なるスタイルに適応し、中盤の軸に

 鍬先の基本となるプレースタイルはいわゆる『ボックス・トゥ・ボックス』。豊富な運動量で攻守に貢献する選手である。ベースとなるポジションはアンカーで、パスやドリブルといったテクニック的な部分より、ハードワークを前面に好守をカバーするタイプだ。

 スピードやフィジカルといった絶対的な武器はないものの、常にピッチ上の状況を考えて献身的に動ける。いわゆる『職人型』の選手に分類されるだろう。こういったタイプの選手が実力を発揮し、周囲の評価を得るには時間がかかるものだが、鍬先の適応力はその時間をグッと短縮させる。

 現在、ヴィッセル神戸を率いる吉田孝行監督の下でプレーした長崎でのプロ1年目は、リーグ4試合目の後半から右サイドバックとして出場し、吉田監督が解任される第11節までの8試合で6試合に出場。後任となった松田浩監督(現ガンバ大阪アカデミーダイレクター)の下では当初こそ先発落ちしたものの、終盤戦にはボランチとして完全にレギュラーを奪取した。

 松田体制2年目となった2022シーズンもボランチの一角としてプレー。成績不振により松田監督が解任され、ファビオ・カリーレ監督が後任となって以降も不動の存在として活躍し、カリーレ監督からは「中盤の軸」と評価された。

Photo: Hirohisa Fujihara

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Profile

藤原 裕久

カテゴリーや年代を問わず、長崎県のサッカーを中心に取材、執筆し、各専門誌へ寄稿中。特に地元クラブのV・ファーレン長崎については、発足時から現在に至るまで全てのシーズンを知る唯一のライターとして、2012年にはJ2昇格記念誌を発行し、2015年にはクラブ創設10周年メモリアルOB戦の企画を務めた。