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上夷克典の「極めて高い戦術理解力」と「嫌がることができる才能」。鳥栖で真価が見られるか?

2024.02.19

[特集]個人昇格選手の可能性
#3 上夷克典(大分トリニータ→サガン鳥栖)

近年だとFC岐阜からヴィッセル神戸にステップアップした古橋亨梧、松本山雅や水戸ホーリーホックで「J2最速」と言われた前田大然など、J2からの個人昇格でJ1、海外移籍、そして日本代表にまで登り詰めた例が増えてきている。ポテンシャルのあるサッカー選手は出場機会を得れば「化ける」。2024シーズンに臨む個人昇格組の可能性を古巣の番記者に解説してもらおう。

第3回は、万能DFとして大分トリニータを支え、サガン鳥栖にステップアップした27歳の上夷克典だ。

西山GM「3年越しのラブコールが実った」

 上夷克典ならJ1クラブからオファーが来ても仕方がないと思っていた。

 京都サンガから大分トリニータに加入した2021年はJ1リーグ戦11試合、翌年はJ2リーグ戦で21試合、昨季もJ2で32試合に出場。負傷やコンディションの波があり、シーズンを通して主力であり続けたことはなかったが、間違いなく高いクオリティでプレーできるプレーヤーの1人だった。

 大分加入時の新体制発表会見で「3年越しで2度目のラブコールがようやく実った」と喜びを口にした西山哲平GMの言葉も、その評価の高さを裏づける。鹿児島育英館中学から鹿児島城西高校と、地元の名門校を経て進んだ明治大学時代では大分アカデミーOBの岩武克弥(現・横浜FC)とCBコンビを組み、2018年の総理大臣杯で準決勝・決勝と連続完封勝利して優勝を遂げた。

 そんな上夷には、岩武とともに当時から複数のJクラブが熱い視線を送っていた。当時はまだ強化部長だった西山GMも上夷の獲得へと乗り出したが、残念ながら上夷が選んだのは京都だった。

 長身でスピードがあり、利き足の右のみならず左においても足下の技術に長けている。後方からのビルドアップ時には長短のパスを織り交ぜながら広い視野を生かしたロングフィードでも攻撃参加し、多面的に高水準でプレーできるDFだ。当時3バックシステムを採用していた京都では左右CBに配置され、プロ1年目で開幕スタメンの座を射止めるとそのシーズンに13試合、2年目には15試合の出場を果たしている。左CBで出場した際にも「角度をつけて配球できるので右とは違ったパスが出せる」と賢く使い分けてプレーしていることを明かした。

主力に定着したのは下平体制の2022シーズン

 片野坂知宏監督が前回大分を率いた最後の年となった2021年の出場11試合のうち、先発は5試合のみ。[3-4-2-1]の右CBで3試合、左CBで1試合、[4-2-3-1]の右CBで1試合という内訳で、先発しても後半途中で交代することが多く、フル出場は1試合にとどまった。負傷がちでコンディションが安定しなかったため、なかなか戦力として計算しづらかったのが主力に食い込めなかった一番の要因だった。

 主力として安定したパフォーマンスを発揮し始めたのは、下平隆宏監督体制となった2022年の初夏からだ。J1から降格したばかりのトリニータはコロナ禍の影響によるリーグ戦の過密日程にルヴァンカップも並行しての戦いを強いられ、前半戦はなかなか勝ち点を積めない日々が続いたが、上夷はJ2第20節・町田ゼルビア戦に3バックの右で先発して以降、全試合にフル出場。過密日程終了後のV字回復を力強く支えた。

 その当時、下平監督が練習後の囲み取材の中で、上夷の変化に言及したことがある。

 「間違いなく能力は高いのに、以前はちょっと痛みがあるとすぐに離脱したがっていた。それが今はメンタル的にも安定して、フィジカルの方の強度も上がった。甘エビじゃなく伊勢エビになってほしいね」……

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg