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平川怜は「威風堂々」磐田へ。熊本の主将として苦楽を味わい、責任を全うした23歳の自信

2024.02.17

[特集]個人昇格選手の可能性
#1 平川怜(ロアッソ熊本→ジュビロ磐田)

近年だとFC岐阜からヴィッセル神戸にステップアップした古橋亨梧、松本山雅や水戸ホーリーホックで「J2最速」と言われた前田大然など、J2からの個人昇格でJ1、海外移籍、そして日本代表にまで登り詰めた例が増えてきている。ポテンシャルのあるサッカー選手は出場機会を得れば「化ける」。2024シーズンに臨む個人昇格組の可能性を古巣の番記者に解説してもらおう。

1回は、ロアッソ熊本で覚醒したタレント、昨季は新キャプテンとしてJ241試合7ゴール9アシストを記録し、争奪戦の末にジュビロ磐田を新天地に選んだ平川怜を取り上げる。

 ロアッソ熊本は今年、クラブ創設20年の節目の年を迎えた。昨シーズン限りで現役を退いた南雄太氏や、今季からJFLクリアソン新宿の監督となった北嶋秀朗氏、J2で年間51試合を戦った2009シーズンに加入してチーム最多の50試合に出場した藤田俊哉氏など、この20年間の歩みを振り返ると、それぞれのシーズンごとに輝きを放ったOBたちの顔が思い浮かぶ。

 一方で、近年は熊本での活躍を評価されてJ1クラブに戦いの場を移す選手が増えつつある。今季からジュビロ磐田の一員となった平川怜もその1人。わずか1年半の短い在籍期間ながら、クラブ史に確かな名前を刻む存在となったのは、2022シーズンの4位フィニッシュと初めてのJ1参入プレーオフ進出、そして昨シーズンの天皇杯ベスト4など、これまでの実績を上書きする結果を残したチームにおいて、彼がひときわ重要な役割を担っていたからだろう。

 そうした存在になり得たのは、彼がもともと高いポテンシャルを持っていたからであることは間違いない。ただそれ以上に、チームを率いる大木武監督が選手たちに求める姿勢、すなわち、90分間、攻守においてボールのないところでもしっかりプレーするという意識をあらためて身につけ、プレーヤーとしてひと皮剥けたことが大きな要因だ。熊本で過ごした日々を通じて自らに磨きをかけたからこそ、再びJ1の舞台でプレーするチャンスをつかんだのである。

「自分がやりたいサッカー」「熊本だから迷わなかった」

 平川の加入が発表されたのは、2022年8月10日。この時点でチームは第30節を終えて12勝11分7敗の勝ち点47で、首位の横浜FCとは10差とやや開きがあったものの、初のプレーオフ進出を狙える6位につけていた。同日、クラブの公式サイトにアップされたリリースでは「とても魅力的なサッカーをするこのクラブの一員になれて嬉しく思います」とコメントしているが、翌11日の練習後に初めて話を聞いた際、移籍の決断について平川は次のように述べている。……

Profile

井芹 貴志

1971年、熊本県生まれ。大学卒業後、地元タウン誌の編集に携わったのち、2005年よりフリーとなり、同年発足したロアッソ熊本(当時はロッソ熊本)の取材を開始。以降、継続的にチームを取材し、専門誌・紙およびwebメディアに寄稿。2017年、母校でもある熊本県立大津高校サッカー部の歴史や総監督を務める平岡和徳氏の指導哲学をまとめた『凡事徹底〜九州の小さな町の公立高校からJリーガーが生まれ続ける理由』(内外出版社)を出版。