
森保JAPAN戦術レポート――アジアカップ編#5_準々決勝イラン戦
森保一監督が続投しリスタートを切った2023年、欧州遠征での強豪撃破をはじめ結果を残し、着実に歩みを進めてきた日本代表。そんな第2期チーム森保にとって、今回のアジアカップはチーム強化の進捗を測る格好の舞台となる。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者でありチーム森保の戦いを追い続けているらいかーると氏が、試合ごとに見えた成果と課題を分析する。
強豪イランと激突した準々決勝は主導権を握り先制するも、そこから攻勢に転じたイランの圧力に屈し逆転負け。3大会ぶりのアジア制覇はならなかった。時間の経過とともに押し込まれていく展開を打開する手立てはなかったのか。内容的にも厳しいゲームとなった一戦で浮き彫りになった現チームの問題点を明らかにする。
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ベスト8からが本番で、それまではくじ運みたいなものだという格言がある。まさにその言葉通りのような試合となった。
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— #AsianQualifiers (@afcasiancup) February 3, 2024
日本ボールのキックオフですでにお馴染みとなっている、左サイドへの突撃で試合が始まるところだったが、放り込む役割の板倉滉のコントロールミスによって、多少の喧騒を招くこととなる。喧騒の終わりはGK鈴木彩艶へのバックパスだった。試合序盤のイランは鈴木まで追いかけ回すことはなく、日本がボールを保持する道を選ぶことを止める気はまるでなかった。
立ち上がりはイランの狙いを外し、主導権を握れていた
イランのプレッシングの配置は[4-4-2]。ファーストラインのアプローチに少し工夫がなされており、サマン・ゴッドスは遠藤航をマークするか背中で遠藤を消すことを優先し、板倉にボールを持たれることは許容しているようだった。もう1人のサルダル・アズムンは冨安健洋にボールを持たせないように板倉方面にボールを誘導したり、CB同士のパス交換を遮断したりしていた。ただ、両者で異なるタスクなのか、持っている個性の差なのかまでは判然としなかった。
毎熊晟矢のプチブレイクにより日本にとって右サイドがストロングポイントという雰囲気になっているが、ボール保持におけるストロングは左サイドである。気が利く守田英正や旗手怜央が苦悩を抱えながらも交通整理ができることに加え、右インサイドハーフの久保建英も左サイドに流れてくること――流行りの言葉を使えばオーバーロード、平たく言えば選手が集まってくることで生じる数的優位――で日本の左サイドは成り立っている。
アズムンが冨安にボールを持たせずに板倉サイドに誘導すれば、自然と日本のボール保持の中心サイドは右となる。イランの狙い通りなら素晴らしいと言いたいところだが、アズムンの動きは是が非でも冨安にボールを持たせたくないというほどあからさまではなかったことから、そこまでの深い意図はなかったと解釈している。なお、イランの自陣に撤退してからの守備は基本的にノーマルだったが、ゴッドスだけは遠藤を追いかけ回すタスクを遂行しようとしていた。
日本のボール保持の配置は[4-3-3]。遠藤をアンカー、守田と久保をインサイドハーフとする形だ。正確に言えば、守田と久保の立ち位置で全体の配置も変更になるが、このあたりは状況に応じて各々が対応していく形になっている。興味深い立ち位置を取っていたのが前田大然。基本的にハーフスペースにいて、上田綺世と2トップのような形になっていた。他の選手とポジションが重なっても気にしてしないようだったが、大外レーンが空っぽにならないように注意を払ってはいるようだった。
ゴッドスの遠藤への注意深さに対して、日本は久保と守田がさっそく動き始める。久保は列を下りながらボールサイドに近寄って+1になることで、守田は遠藤の位置で代わりにプレーすることで、遠藤を解き放つことに成功。3センターではないけれど、そのような様相にも変化できることは日本の柔軟さを示しており、過去の試合でも遠藤にマンマークがついた時は守田が遠藤のタスクを代わりに行うことで状況を打破したことがあった。
ボール保持では早々に安定感を保っていく日本。そんな日本のプレッシングは、イランのGKまで届いていた。相手のロングボールの起点をなくすべく前からプレッシングに行く姿勢は、強度を取り戻したインドネシア戦から続いている。対するイランは日本が得意としている速攻やカウンターを食らわないようにペースダウンを図っているかのような立ち上がりだったが、遠藤周りをぼやかされたことで良い雰囲気ではなかった。

当初は効果的でなかったイランのプレッシング
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。