ボールキープ≠主導権。34歳ファリオーリが仏No.1堅守ニースで追求する「失点しないことへのポジティブな執着」
23-24欧州各国リーグ:ダークホースの注目監督
第5回 ニース×フランチェスコ・ファリオーリ
レバークーゼンがバイエルン、ジローナはレアル・マドリーと冬の王者を争い、アストンビラとフィオレンティーナもCL出場圏内に食い込むなど、例年以上の波乱が起きている欧州各国リーグの2023-24シーズン。シャビ・アロンソ、ミチェル、ウナイ・エメリ、ビンチェンツォ・イタリアーノら、後半戦でも要注目のダークホースを率いる監督たちの戦術と哲学、そしてチームと生み出す相乗効果に迫る。
第5回で取り上げるのは、今季リーグ1でパリ・サンジェルマンの対抗馬となったニースの新世代指揮官ファリオーリ。1989年生まれの34歳、ロベルト・デ・ゼルビに見出された「イタリアのナーゲルスマン」が、初参戦の地フランスで追い求める己の美学とは?
「ゴールを与えないことは、熱いハートと欲望を意味する」
現在、首位のパリ・サンジェルマンに次いでリーグ1の2位につけているOGCニース。第18節を終えて10勝5分3敗。開幕から13試合無敗(8勝5分)をキープし、そのうち10試合でクリーンシートを記録。それだけでなく、翌14節のナント戦で25分に先制点を奪われるまで、1分たりとも、相手にリードを許さない磐石ぶりだった。
そんな彼らについて、18試合でリーグ最少の11失点に、最下位のロリアンより少ない19得点、という数字から想像するのは、「がっちりとブロックを作って引いて守る守備重視のチーム」という印象ではないだろうか。
確かに、[4-3-3]から相手ボール時には[5-4-1]にスイッチし、ゴール前を固めて相手を近づけないスタイルは、こじ開けにくい鉄壁ディフェンスを連想させるものではあるが、試合全体を通して彼らが見せるのは、時にアグレッシブでメリハリの利いた、躍動感あふれるゲームだ。
昨夏、ニースの監督に就任したイタリア人のフランチェスコ・ファリオーリ流に言うと、彼らが追求しているのは「失点しないことへのポジティブな執着」であるという。
「私にとって、ゴールを与えない(試合をする)ことは、退屈なものではなく、熱いハートと欲望を意味するものだ」
毎試合後、34歳の指揮官は、ディフェンスにも奔走した攻撃陣に感謝の言葉を述べるという。ファリオーリにとって相手に点を与えずに守り切るということは、そのための強い意志と集中力、献身さを要することであり、その情熱を持ってプレーすることが尊いと、彼は考えているのだった。
チームキャプテンにしてディフェンスラインの主は、現在40歳と聞いて驚くほどフィジカル全開のブラジル人CBダンチ。アグレッシブな対人ディフェンスは衰えることなく、スタッド・ランスとの対戦(○2-1)では相手のオフェンスリーダーである韋駄天、伊東純也を徹底的にマークした。
このダンチと名コンビを組むのが、バルセロナに在籍経験もある24歳のジャン・クレール・トディボ。タックルの名手は、ニースでの活躍を評価されて昨年9月にフランス代表デビューを果たした。
そして、相手ボール時に2人の間に入って5バックを形成するブルンジ代表の守備的MFユスフ・エンダイシミイェがまた素晴らしい仕事をする。相手カウンター時にゴール前に迫るアタッカーを捕らえるのは彼の役目であり、ビジョンにも優れた知的な25歳をファリオーリは母国の英雄になぞらえ、「我らのピルロ」と呼んでいる。昨年1月にニースに入団する前はトルコのイスタンブール・バシャクシェヒルでプレーしていたエンダイシミイェについて、同じくスュペル・リグで指揮を執っていたファリオーリは前々からその汎用性のあるプレースタイルに着目していたのだった。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。