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ジローナ首位躍進の秘密は「ファンでも理解できる」戦術ミーティング?ミチェル監督が挫折から学んだ弱小クラブ強化術

2024.01.21

23-24欧州各国リーグ:ダークホースの注目監督
第3回 ジローナ×ミチェル

レバークーゼンがバイエルン、ジローナはレアル・マドリーと冬の王者を争い、アストンビラとフィオレンティーナもCL出場圏内に食い込むなど、例年以上の波乱が起きている欧州各国リーグの2023-24シーズン。シャビ・アロンソ、ミチェル、ウナイ・エメリ、ビンチェンツォ・イタリアーノら、後半戦でも要注目のダークホースを率いる監督たちの戦術と哲学、そしてチームと生み出す相乗効果に迫る。

第3回で取り上げるのは第20節時点で、ジローナを暫定ながらリーガ首位に導いているミチェル監督。弱小クラブが勝ち点8差をつけている4位バルセロナとの差異、スペイン人指揮官の同じシティ・フットボール・グループ傘下のマンチェスター・シティを率い、比較されるペップ・グアルディオラ監督との共通点とは?

 ミチェルとペップ・グアルディオラの最大の違いは何か? インタビューに応じるか否である。

 ミチェルは自由にタダで見れて読める膨大な動画や記事に登場し、自分や自分のチームについて語っている。それを聞くだけで、この記事の数十倍の内容と価値がある。著作権の問題がなければ何万文字分の発言をここに羅列したいくらいだ。ミチェルの言葉は、ファンとしてサッカーを楽しんでいる人と監督やコーチとしてサッカーに関わっている人にとって金言であり、より良いファン、監督、コーチになるために大きく貢献している。

 「天才」と呼ぶことをはばからないミチェルはグアルディオラを尊敬し、比較されるのはおこがましいとばかりに「(凡人の)私にはわからないことばかり」と常に語っている。マンチェスター・シティの次期監督なんて言われることもあるが、たとえそうなったとしてもインタビューを拒否するなんてせず、ぜひその控え目な姿勢で発信し続けてほしいものだ。

 グアルディオラの考えていることを本人の口から聞くことは不可能だが、代わりにミチェルが語ってくれている。しかも噛み砕いて。巷にあふれる高度な戦術論はディベート向きではあっても、選手に理解させ実践させるべき現場向きではない。ミチェルは選手の前で難しい言葉を使わない。「戦術ミーティングにファンが立ち会っていても理解できるレベルだ」という。

 例えばボール出し。

 ミチェルの指示はシンプルだ。「同数+1人」で出す。相手が2トップならこちらはCB2枚+GKで臨む。GKは常にフリーで、2トップのどちらかがプレスを掛けてきたらCBのどちらかがフリーになり、そのフリーの選手がボールを持って前を向けば、相手は下らざるを得なくなる。相手がワントップや3トップの場合は開いた3バック(CB2枚+SB1枚)で対応。いずれもフリーのGKが「+1」として数的有利を作る仕組みは同じだ。

 こういう説明を聞くと、シャビ・エルナンデス監督のバルセロナがなぜボールを出せないかがわかる。バルセロナもよく3バック(ジュール・クンデ、ロナルド・アラウホ、アンドレアス・クリステンセン)になっているが、3人は開いておらず(相手を引きつけて開かせておらず)、GKへのバックパスをせず(相手のプレスを誘えないのでフリーマンが生まれない)、さらに悪いことに中盤からイルカイ・ギュンドアンやフレンキー・デ・ヨンクまでボールを触りに下がって来るので、過剰が起きている(スペースを消し合っている)。「+1」のジローナはボールがスムーズに出ているが、「+2、+3」のバルセロナは出せていない。

 ミチェルが我われのサッカー理解に貢献している、というのはこういうことに気づかせてくれることを指す。

第15節バレンシア戦の88分、クリスティアン・ストゥアーニが挙げた勝ち越し弾に選手やスタッフとともに喜びを爆発させるミチェル

“ニンジン”が「最高のプレス攻略法」

 もし相手が構えてプレスに出てこないとすればどうすれば良いのか?……

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。