よもやの苦戦を招いた原因を、日本側の要因とベトナムの周到な対策の両面から探る。アジアカップ日本対ベトナム戦分析
森保JAPAN戦術レポート――アジアカップ編#1_GS第1節ベトナム戦
森保一監督が続投しリスタートを切った2023年、欧州遠征での強豪撃破をはじめ結果を残し、着実に歩みを進めてきた日本代表。そんな第2期チーム森保にとって、今回のアジアカップはチーム強化の進捗を測る格好の舞台となる。『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』の著者でありチーム森保の戦いを追い続けているらいかーると氏が、試合ごとに見えた成果と課題を分析する。
GS初戦となったベトナム代表とのゲームは4-2で勝利したものの、一時逆転を許すなどよもやの展開となった。その原因を日本側とベトナム側、両方の視点から探る。
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ボール保持を捨てない姿勢が生むジャイアントキリング
今回のアジアカップでは、撤退した相手をいかに崩すかが日本に与えられた課題となるだろうと多くのメディアで声を大にして叫ばれていた印象があるが、日本を相手にボールを保持する道をベトナムは捨てていなかった。その姿勢――自分たちのターンでは無闇にボールを捨てることはしない――が、次のW杯で日本が目指しているであろう姿勢と同じであったことは偶然の一致であった。強者を相手にジャイアントキリングを起こすための手法として、ボール保持を捨てないことの大事さがアジアでも認識されつつあるのかもしれない。
フラット3を代名詞としていた懐かしきフィリップ・トルシエ監督に率いられたベトナムは、ボール保持の配置を[3-2-5]、ボール非保持の配置を[5-4-1]とした。特徴的だったのは、[5-4-1]だけどハイラインだということだろう。縦を圧縮することによって日本の中盤を捕まえ続け、裏へのロングボールにはGKとともに対応。日本はロングボールを選べば自らボールを捨てることにも繋がり、それはベトナムのボール保持の出番に繋がる2段仕掛けの罠は、日本のボール保持選択を大いに迷わせることに繋がったに違いない。
強度の高いプレッシングを持ち味とする日本からすれば、ベトナムがボールを大事にする姿勢を貫くことは歓迎すべき状況だった。しかし、日本の強度の高いプレッシングが発動する場面は数えられるほどであったし、ある程度の時間の経過を持たなければならなかった。その理由は多岐に渡るだろう。
選手によって生まれる振る舞いの差
1対1で負けないことが前提になっている日本のプレッシングだが、普段だったら奪い切れる場面でプレッシングを剥がされてしまう場面がこの試合では目立っていた。デュエルキングである遠藤航ですら絶望と希望を交互に繰り返しているような立ち上がりだったので、チーム全体としてベストコンディションを決勝トーナメントに合わせている可能性もあるし、現地の気候にまだ馴染んでいないのかもしれない。……
Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。