愛媛FCが示した、J3の沼から抜け出す術。その正体とは?【特集:J3に落ちたときに大事なこと】
J3に落ちたときに大事なこと#4 愛媛FCの場合
近年の競争激化で、J2からJ3に降格したクラブは簡単には上がれなくなった。今J3で何が起きているのか、降格した後チームは何をどう準備すべきか。降格経験のあるクラブの番記者が降格当時の事情、そしてその時に何が大事だったかを振り返る。
第4回は2023シーズン、J3優勝を果たしJ2昇格を決めた愛媛FC。1年での復帰を目論むも逃した1シーズン目の誤算と2シーズン目の変化について総括するとともに、そこから見えてきたJ3の戦い方のヒントを松本隆志が提言する。
失敗と成功。今季、昨季とJ3という“沼”のカテゴリーで身をもってそれを体験し、J3制覇に至った愛媛は、この沼から抜け出る最新の術を最も知っているチームなのかもしれない。
愛媛はJ2で16シーズンを過ごしたのち、2021年に20位でシーズンを終え、4チーム降格の特別レギュレーションの煽りを食う形でJ3へ降格。22年のJ3参戦初年度は本格的な昇格戦線に加われぬまま7位でシーズンフィニッシュとなった。しかし、2年目の今季は開幕戦で5失点の大敗を喫したものの、その後はコンスタントに勝ち点を積み上げ続け、2位に勝ち点11の大差をつけて見事優勝をつかみ取った。
J2へ復帰するまでに2年間の時間を要したが、それでも2年での復帰は“成功例”と言うべきモノ。これまで1年でのJ2復帰を果たしたのは16年の大分の1例のみで、2年での復帰も栃木、群馬のたった2例に過ぎなかった。愛媛と“降格同期”の松本、相模原、北九州は来季も引き続きJ3での戦いを強いられるだけでなく、相模原は昨季、北九州は今季リーグで最下位に低迷する屈辱。さらに、今季J3へ降格してきた岩手、琉球も昇格戦線とは無縁のシーズンを送り、J3沼の深みにハマった。
これほどまでにJ2からの降格チームが苦戦する姿を目の当たりにすれば、上位カテゴリーからやってきたからという理由だけで、J3でデカい顔などできるはずもない。もし、過去のちっぽけなプライドを胸に上から目線で臨もうものなら大火傷を負うこと必至。J3とはそれほどまでに困難かつタフなリーグである。
開墾作業に費やした1年
そんな中で降格クラブに求められるのは“生まれ変わる”こと。愛媛とてJ2で戦い続けていたスタンスのまま変われずにいたら、来季もまだ沼の中にいただろう。ただ、幸いなことに愛媛は生まれ変わることができた。……
Profile
松本 隆志
出版社勤務を経て2007年にフリーへ転身。2009年より愛媛FCを中心としたプロサッカークラブの取材活動を始める。サッカー専門紙エルゴラッソ、サッカーダイジェスト等へ寄稿。ライター業とともにフォトグラファーとしても活動する。