なぜ清水戦の大敗は繰り返されたのか――いわきFCが目指す先を考える
Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.8 いわきFC
30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。
第8回は、J2初挑戦となる1年を18位で終えたいわきFCをピックアップ。長く指揮を執ってきた田村雄三監督が“復帰”した後半戦は、鮮やかな巻き返しに成功。きっちり残留をつかみ取ったが、周囲に大きなインパクトを残したのは2度にわたる清水エスパルス戦の大敗だろう。アウェイで1-9、ホームで1-7と衝撃的なスコアの黒星を突き付けられたが、この2つの大敗は大きく意味が異なるという。
強豪・清水エスパルスに喫した2度の衝撃的な大敗
一時、降格圏に沈むも後半戦で巻き返し、初挑戦となったJ2で残留を決めた。12勝11分け19敗の18位は好成績とは言えない。それでも後半の21試合に限れば8勝6分け7敗と、積み上げた勝ち点「30」はリーグ8位の成績だ。第37節には優勝したFC町田ゼルビアを3-2で破るなど、J2でも十二分に戦える力が備わっていることを示した。復活の最大の要因となったのが監督交代。県1部からJFLまで5シーズンを指揮した田村雄三監督の現場復帰により、クラブは原点に立ち返った。
監督就任から町田を破るまでの「復活劇」については前回紹介した通り。「日本のフィジカルスタンダードを変える」というクラブの哲学に立ち返ったフィジカル強化に加え、カウンター攻撃が主体だった戦い方に、ボールを丁寧につなぐ戦術を織り交え、複数のシステムや柔軟な選手起用も行った。一貫して[4-4-2]による非保持型を突き詰めた今季前半の「一芸特化」的なサッカーから、攻撃的なら「なんでもやる」というサッカーへと舵を切ったことが、結果としてチームの成長につながった。
シーズン全体を振り返る上で触れなければいけないのが、町田戦の2試合後に行われた第39節の清水エスパルス戦だ。前回1-9と歴史的大敗を喫した相手に雪辱を果たそうと挑んだが、ホームで1-7と再び大量失点で負けた。
「なぜ大敗は繰り返されたのか」との視点で試合内容を詳細に分析することで、クラブの今季の成長と課題、そして来季の目標が見えてきた。いわきを目立たせた90分間を、今季を象徴する1試合として取り上げたい。
明確な狙いと崩れた想定。“2度目の清水戦”を振り返る
試合3日前の公開練習で田村監督は「いかにいつも通りにやるか」を勝負のポイントに挙げた。この言葉通り、前回大敗した清水が相手だからといって特別なことをした訳ではなく、直近の試合の内容を踏まえた戦い方を選んだ。
採用したシステムは[3-1-4-2]。田村体制下では[4-1-4-1]と併用して何度も使用してきたシステムだ。[4-1-4-1]を選ばなかったのは、前節のベガルタ仙台戦(△2-2)で機能しなかった反省があったからだ。
仙台戦での課題は、1トップによるサイドへの限定が効かず、中盤のマークも曖昧になったことだった。落ちて受ける仙台のボランチとトップ下を自由にさせ、アンカー下田栄祐の脇から攻めを許した。
攻撃の組み立ての際に中盤が早めにボールを引き取るのは清水も同じ。トップ下のフリーマン・MF乾貴士へのマークをはっきりするためにも、清水の[4-2-3-1]に沿わせるような立ち位置からマンマークで、ボールの出所を押さえにかかった。 ……
Profile
小磯 佑輔(福島民友新聞社)
1996年1月生まれ。大学卒業後の2020年、福島民友新聞社に入社。翌21年にいわきFCの担当記者となり、2度の昇格を取材した。小中高時代は打つより投げることの好きな野球少年。大学時代にサッカーの面白さに出会って以来、毎週の海外サッカー観戦を欠かさない。