岩政監督のサッカーが形にならなかった理由。国内7年無冠の鹿島はどうあるべきなのか?
Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.7 鹿島アントラーズ
30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。
第7回は2016年以来の王座奪還が叶わず、J1最終節後に岩政大樹監督の退任が発表された鹿島アントラーズの理想と現実のギャップについて。2年目の指揮官が目指したサッカーはなぜ形にならなかったのか。おなじみの敏腕番記者、田中滋氏に伝えてもらった。
「自分なりにやり切ったと思っています」
最終節の記者会見場で岩政大樹監督は達観したような表情を見せていた。
「2年間、自分なりにすべてやり切ったと思ってますし、ここに僕が来たのは、監督をやりに来たわけじゃなくて、10年間の恩返しをしにきたので、その恩返しは自分なりにやり切ったと思っています」
明治安田生命J1リーグの最終成績は、14勝10分10敗で勝ち点52の5位。優勝したヴィッセル神戸との勝ち点差は19と大きく水をあけられた。その前年は、首位の横浜F・マリノスと勝ち点差16の4位だっただけに、率いた1年でリーグの頂点に立つチームとの差を詰めることはできなかった。翌日、クラブは岩政監督の退任を発表した。コロナ禍の影響でレネ・ヴァイラーの来日が遅れ、いきなり監督代行として指揮を執ることからスタートしたプロでの指導歴は、2シーズンでいったん幕を閉じることとなった。
やろうとするサッカーが体現できた試合もあったが、それ以上に思ったような試合にならないことの方が多かった。特にシーズン終盤になると選手たちの表情に苦悩の色が濃くなっていく。8月6日の北海道コンサドーレ札幌戦で3-0の快勝を収めた後、岩政監督は「これをもって上位陣に殴り込みをかける」と宣言したが、9月に入ってYBCルヴァンカップ準々決勝で名古屋グランパスに敗れると、9月24日の横浜FM戦でも1-2の逆転負け。次のアビスパ福岡戦では攻撃の形を作れず0-0の引き分け、2週間のインターバルを挟んで臨んだ神戸戦で1-3の完敗を喫すると、いい形を取り戻すことができず6試合連続勝ちなしで、一気に優勝戦線から脱落していった。最終節では、すでに降格がほぼ決まっていた横浜FC相手に2-1で勝利したものの、クラブが新監督の招へいを決断したのもやむを得ないだろう。
サッカーが形にならなかった最大の理由は、監督のチーム作りが手探りだったことが挙げられる。当然と言えば当然なのだが、岩政監督はプロのクラブを率いた経験がなかった。上武大学で1年間監督を務めた経験はあるものの学生スポーツとプロスポーツには大きな隔たりがある。個性豊かなタレント集団であり、自分自身に高いプライドを持っているプロサッカー選手を束ねることは容易ではない。その上、自分自身が思い描くチーム像に、どういう道のりをたどればたどり着けるのかわからないまま手探りで進まなければならなかったことで、少しつまずいた時に、自分たちが今どこを歩いていて、どこまで戻れば正しい道のりまで戻れるのかがわからない状態に陥ってしまった。シーズン終盤で勝てなくなった時、それまで積み上げてきたものがまるで蜃気楼だったかのように一気に瓦解してしまったのも、基盤や土台となる確固たるものが築けていなかったからだろう。
選手たちに伝わり切らなかった指揮官の“狙い”
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Profile
田中 滋
サッカーライター。08年よりサッカー専門新聞『EL GOLAZO』にて鹿島アントラーズを担当。有料WEBマガジン『GELマガ』も主催する。著書に『世界一に迫った日 鹿島アントラーズクラブW杯激闘録』など。