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我慢の1年でも「最後に勝つ」。川崎Fを天皇杯優勝へ導いた鬼木監督の手腕と山根視来の危機感

2023.12.19

Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.5 川崎フロンターレ

30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。

第5回では、我慢を強いられながらも天皇杯優勝で有終の美を飾った川崎フロンターレをピックアップ。「最後に勝つ」を有言実行した鬼木達監督の手腕と、チームを叱咤激励した山根視来の危機感がもたらしたものとは。番記者のいしかわごう氏が1年を総括する。

 昨年は2位で3連覇を逃し、王座奪還を誓って臨んだシーズンだった。しかしJ1では序盤から低迷し、一度も優勝戦線に浮上することなく最終的な順位は8位。2017年から始まった鬼木体制で最も低い順位で終わっている。

 それでも無冠で終わらないところが、近年の川崎フロンターレというクラブの底力だった。苦しみながらも天皇杯をしぶとく勝ち上がり、決勝戦ではPK戦の末に勝利して一冠を奪取。ACLではKリーグを連覇している蔚山現代を筆頭に、難敵ぞろいのグループステージを5勝1分で首位通過を果たしている。夏場以降は徐々に立て直し、シーズン終盤には右肩上がりに。終わってみれば、10月からは公式戦12試合負けなしで駆け抜けた。

 一時期のように相手を圧倒し続けるほどの強さはなくとも、決して自分たちからは崩れない。そして、粘り強く戦って最終的には勝つ。今シーズンは、そういうメンタリティや哲学がクラブに浸透しつつあることを示したシーズンだったと言えるだろう。天皇杯優勝後、鬼木達監督が口にしていた言葉は印象的だ。

 「タイトルを獲れないことに慣れてはいけない。どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」

J1第23節、ヴィッセル神戸(●0-1)戦の飲水タイム中に指示を出す鬼木監督(Photo: Takahiro Fujii)

新主将の人選にも表れた「若手育成」の収穫と課題

 苦しんだシーズンだったからこそ、たくましく成長を遂げた選手も多い。

 その筆頭が14番の脇坂泰斗だろう。巧みなターンとパスセンスに秀でた技巧派の選手ながら、リーグ戦9得点とチームトップの得点数を記録。守っても球際では泥臭さや強さを見せ、献身的に汗をかいた。シーズン終盤にはPKキッカーを任されるなど、勝敗の責任も背負って、名実ともにチームの顔となっている。チームは8位に終わったが、Jリーグベストイレブンにも選出された。天皇杯優勝後、今季タイトルを獲った意味を彼はこう明かす。

 「タイトルを経験して見えてくるものが間違いなくある。昨年の2位も含め、タイトルは転がってくるものでは絶対にない。自分たちが仲間を信じて、自分を信じて戦いつかみに行くもの。その姿勢だけは今日は崩さずにやれたと思います」

J1第9節、浦和レッズ戦(1-1)で先制点を挙げて吠える脇坂。30試合9ゴール6アシストの得点関与数15は昨季に並ぶキャリア最多タイで、3年連続となるベストイレブン入りを果たしている(Photo: Takahiro Fujii)

 今季のチームの戦いぶりを振り返っていくと、やはり「我慢」の時期を過ごしたシーズンという印象がある。とりわけ春先はその実感が強かった。

 鬼木体制としては7年目のシーズンを迎えた今季は、過去6年とも違ったチーム作りで進んでいる。……

Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago