J1初挑戦でリーグ全試合フル出場。サガン鳥栖・河原創が2023年に感じた葛藤と成長
Jリーグ新時代に求められるもの――2023シーズン注目クラブ総括
Vol.4 サガン鳥栖
30周年を迎えたJリーグ、J1・J2注目クラブの2023シーズンを徹底総括。有望株や実力者の海外流出、人材流動の加速で変化する序列と台頭する新戦力、そしてACLの秋春制移行――環境が激変する新時代を生き残るための戦術&人心掌握術とは? 最終結果だけでは見えてこないチーム作りの方向性と試行錯誤、そして選手自身の成長と物語を専門家と番記者の視点で掘り下げる。
第4回では、新たなビルドアップ仕組みに取り組んだサガン鳥栖について。その中心を担うべく、ロアッソ熊本から加入した河原創の1年を、番記者の杉山文宣氏に振り返ってもらった。
「ボールハントが武器のチーム」から「ボールを運ぶ仕組みを強調するチーム」へ
川井健太監督体制2季目となった23年シーズン。チームの方向性は同じままだったが、カラーは大きく変わった。端的に言えば、22年のサガン鳥栖はボールハントが武器のチームだった。それが今季はボールを運ぶ仕組みを強調するチームへと変化した。その要因となったのが今季、ロアッソ熊本から加入した河原創の存在だった。
まず、川井監督が考えたのは近年の「プレスに来るチームが増えてきた」というJリーグの傾向だった。今季のキャンプでも[4-1-2-3]や3バックからダブルボランチの1枚が最終ラインに落ちる形などにトライした川井監督は本来、「(保持の際、中盤の底は)1枚でやれたらいいし、それが個人的には好き」だという。しかし、近年の傾向もあり、「あえて2枚にして、撒き餌にするほうが効率がいい。撒き餌を散らして、その奥のゾーンでどれだけ釣れるか」と考えた。
マンツーマン気味にプレスに来るのであれば、1枚を2枚に変えて、より相手を引っ張り出す。スペースを消されて苦しむ傾向にあった鳥栖だったが、自分たちが活用するためのスペースを作り出すために、相手の狙いを逆手に取ることが狙いとして一つあった。そして、もう一つは鳥栖の特徴であるウイングの推進力を消すために、守備で外切りしてくるチームが増えたこと。その対応としてボランチの選手を使いながら、相手を中央に寄せてから外にスペースを作って前進させる。この2つが今季の仕組みづくりの大きなテーマだった。
22年は小泉慶(FC東京)がボランチの中核を担っていた。高強度を誇り、優れたボール奪取能力を持つ小泉。無尽蔵な運動量と正確な長短のキック精度を持ち、攻守両面において数多くの局面に顔を出せる河原。2人のキャラクターの違いはチームスタイルにも大きな影響を与えた。
昨季のオフ、獲得交渉に同席した川井監督に河原はこんな質問をぶつけている。「僕に足りないものは何ですか?」。それに対して、川井監督は「中盤の底を2人できるかどうか。それを見てみたい」と答えたという。ただ、それは川井監督にとって懸念でもあった。「熊本ではあの位置をずっと1人でやっていた。誰かと協力したプレーするというところがどうなるかというのはありました」。熊本でのアンカーとしての働きが素晴らしかったからこそ、ダブルボランチでのプレーを不安視していた。
「1枚でやるとき」と「2枚でやるとき」の大きな差異
初めての移籍を経験し、新天地でのシーズンを迎えた河原だったが、大事なキャンプのほとんどの時間をけがによるリハビリで過ごすことになってしまう。開幕にこそ間に合ったがぶっつけ本番に近い状態で、その影響もあってかシーズン当初はあまり存在感を放つことができなかった。そんな河原だったが、ある状況においては存在感を見せるようになる。……
Profile
杉山 文宣
福岡県生まれ。大学卒業後、フリーランスとしての活動を開始。2008年からサッカー専門新聞『EL GOLAZO』でジェフ千葉、ジュビロ磐田、栃木SC、横浜FC、アビスパ福岡の担当を歴任し、現在はサガン鳥栖とV・ファーレン長崎を担当。Jリーグを中心に取材活動を行っている。