中島元彦が杜の都でもがき、つかんだものとは?「戦うこと」の真の意味
レンタル選手の現在地2023 #6
中島元彦(セレッソ大阪→ベガルタ仙台)
バル・フットボリスタでも取り上げた「ポストユース問題」。J1でプロ契約した高卒選手がその後どのように試合経験を重ねていくかは、日本サッカーの発展を考える上で大きな課題だ。J2やJ3への期限付き移籍はそれを解決する1つの手段だが、修行先でも厳しい戦いが待っている。試練を乗り越えて活躍する若手選手たちの「現在地」を徹底レポート。第6回は、セレッソ大阪からベガルタ仙台にレンタルされている中島元彦を取り上げる。
千葉戦で決めたゴールの意味
それは明治安田生命J2リーグ第36節・ジェフユナイテッド千葉戦でのこと。85分、仙台のCB菅田真啓からのフィードを最前線の山田寛人が相手と競り合いながらボールをおさめると、山田を追い抜いてゴールへ猛突進する選手がいた。中島元彦だった。山田が、中島にボールを送ると、中島はまだゴールから遠い位置にもかかわらず、迷いなく右足を振り抜く。
強烈なミドルシュートが突き刺さり、スコアは1-2に。それまで千葉のプレッシャーに苦しんでいた仙台の攻撃が、ようやく実を結んだ瞬間だった。
得点者の中島にとって、これが2023シーズンの6点目。プロ入り後のキャリアハイを更新した。しかし、試合後に取材エリアに現れた中島は、ニコリともしていない。それもそうだ。あのゴールで反撃の狼煙を上げたものの、仙台はその後に前がかりになっていたところをカウンターで突かれ失点。1-3で敗れ、もとより苦しかったJ1昇格が、さらに遠のく結果となってしまった。
勝てなかったこと以上に深刻だったのが、中島自身が試合に出るまでチームのシュートがほとんどなかったことだ。中島は、この試合のピッチに立つまでに時間を要していた。様々なフラストレーションが溜まっていたところで、出番が来た。
「まずは試合に出られることのありがたみを実感しました。そこで初心を取り戻せたのが大きかった」と自身を落ち着け、タッチラインを跨いだという。
その“初心”のひとつが、あのシュートだった。「チームとしてゴールの匂いがしていなかったところに、交代選手達が勢いを出してくれていました。その中で、コースが見えたらとにかく打とうと思っていたので、そこで自分らしさが出せたと思います」。中島が自分らしくあること。それがあの強気のシュートと強気に前へ出る姿勢だった。
2023シーズンの中島には、シュートもパスも、強気が失われていた時があった。
昨年の今頃、中島がこんな話をしてくれたことがあった。
「自分自身、何が特徴かというと、パッと出てこないんですよ。ミドルシュート、かな? もともと、ゴール前だけで、仕事をしていたような選手で……」……
Profile
板垣晴朗
山形県山形市生まれ、宮城県仙台市育ちのみちのくひとりダービー。2004年よりベガルタ仙台を中心にフットボール取材を続け、オフの時期には大学院時代の研究で縁ができたドイツへ赴くことも。どこに旅をしてもスタジアムと喫茶店に入り浸る。著書にノンフィクションでは『在る光 3.11からのベガルタ仙台』など、雪後天 名義でのフィクションでは大衆娯楽小説『ラストプレー』(EL GOLAZO BOOKS)。フットボールにまつわる様々な文化を伝えること、そして小説の次回作が最近の野望。