右ウイング、久保建英をめぐるジレンマ。『モダンサッカー3.0』視点で斬る日本代表(後編)
日本代表欧州遠征2023徹底分析#9
カタールW杯でベスト16入りした森保一監督率いる日本代表は、続投が決まった指揮官の下で新チームが始動。「ポゼッションの質を上げる」ことを新たなテーマに掲げ、特に[4-3-3(4-1-4-1)]で臨んだ6月のエルサルバドル(〇6-0)、ペルー(〇4-1)との2連戦では新しいチャレンジへの可能性を感じることができた。9月のドイツ、トルコとの2連戦は、第二次森保体制の最初の分岐点になるだろう。約4カ月後のアジアカップ、そしてその先のW杯予選に向けて、様々な角度から欧州遠征を分析してみたい。
『モダンサッカー3.0』の中で日本代表のバリアビリティ(多面性)を高く評価していたアレッサンドロ・フォルミサーノの目にこの2試合はどう映ったのか? 後編では、欧州屈指の右ウイングとして評価されている久保建英を先発で起用できないチーム構造を読み解く。
久保建英ではなく、伊東純也を起用する理由
――決定機ということでいうと、自陣からのビルドアップではなく敵陣での振る舞い、ファイナルサード攻略に関して目立ったのはどのようなところでしたか?
「W杯ではカウンターアタックが最大の武器でしたが、今回はそれに加えてファイナルサードでのクイックなパス交換によるコンビネーションが目立ちました。ポジションを入れ替えながらボールを動かし、スペースに侵入してパスを引き出し、あるいは相手を引っ張って新たなスペースを作り出す。決定機の多くはクロスから生まれていますが、そこに至るまでにはポジショナルなボール保持で相手を揺さぶっています。
伊東純也、久保、三笘らがクロスからフィニッシャーとGKを1対1にするクリーンな決定機を作り出したのは、その準備をチーム全体で整えた結果です。今挙げた3人に加えて菅原、毎熊、堂安も決定機につながるラストパスを出している。これは5、6人をファイナルサードに送り込んでいるからであり、そこから決定機を作り出すクオリティを備えたプレーヤーを数多く擁しているからでもあります。これは、トップレベルのチームだけが持っている特徴です。
とはいえ、この日本のアイデンティティは今なお『トランジションのチーム』であって、『ビルドアップとポゼッションのチーム』ではないと思います。コンパクトな陣形によるミドルプレスでボールを奪い、そこから伊東純也、三笘という爆発的なスピードを持つウイングが一気に縦方向に攻め上がってフィニッシュまで持って行くポジティブトランジションが最大の武器です。ボール奪取数が最も多いのが遠藤だというデータは象徴的です」
――その土台の上にポゼッションからの崩しのクオリティが積み上がっているのだとしたら、チームは正常かつ着実な進化を遂げつつあると言うことができそうですね。
「もちろんです。後方からのビルドアップに関して言うと、ファーストサードでは左サイドでのパス交換が多く、そこから右に展開してウイングとSBの連携から崩しにかかるケースが多く見られました。ただ、崩しに関して最も強力なプレーヤーはやはり三笘ですから、ビルドアップの中ではプレッシャーラインを越えるパスで彼にクリーンなボールを届けようという意図が常に働いています。それと並ぶ選択肢として右への展開があるという構図でしょうか。三笘、伊東純也がアイソレーションからスピードに乗った突破を仕掛けて来るのが、相手にとって最も困難な展開であることは明らかです」
――ドイツ戦の右ウイングは伊東純也で、久保建英はベンチスタートとなりました。いまや欧州でも屈指の右ウイングとして評価を確立しつつある久保をどう使うかについてはどのように考えますか?
「最初に、ドイツ戦のメンバーが現時点におけるベストメンバーだろうと言いましたが、それに関して考察すべき重要なポイントは、トップ下に誰を起用するかという選択です。日本は特定のプレーヤーに依存するタイプのチームではありません。ドイツ戦では鎌田、トルコ戦では久保と、まったくタイプの異なるプレーヤーがトップ下に入りましたが、チームとしての基本的な振る舞いとそれを支えるプレー原則はまったく変わらなかった。……
日本代表欧州遠征2023徹底分析
Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。